『光の回廊』(「3丁目のサテンドール」収録)
清原なつの 小学館 669
7月2日は「半夏生(はんげしょう)」。1年のちょうど真ん中に当たるこの日、関西地方では昔からタコを食べる習慣がある。
田んぼに植えた苗がタコの足のようにしっかり根を生やすことを願って、またはタコに含まれるタウリンが夏バテに効果的だから、という説も。
そんな風習を踏まえて、今世紀に入ってから蛸研究会によって、7月2日は「蛸の日」と制定されたのである。
清原なつの『光の回廊』に収録されている「3丁目のサテンドール」は、世にも珍しい「たこ焼きマンガ」だ。
渡仏してフランス料理を学んだエリート料理人ながら、たこ焼きに強いこだわりを持つマスターは、リーゼントにサングラスという風貌のすっとぼけた男。本業のつもりのたこ焼き屋はなぜか繁盛しないので、喫茶店経営と2足のわらじで暮らしている。
そこに絡むのは、マスターがウェイトレスとして雇った、ワケありげな家出娘・青菜。「庶民の味」に憧れて飛びこんできた大金持ちのお坊ちゃま・忠尚。
まったく異質な3人だが、「のびのびと、思うように生きたい」という気持ちを秘めた者同士、不思議と理解しあう関係になっていく。
本作の見どころは、厳しい祖母のいいなりだった忠尚が、豪邸で開かれる誕生パーティーで「マスターにたこ焼きを作ってもらう」と主張してからの展開だ。
なんといっても、忠尚のメンツをかけた、マスターのたこ焼きパフォーマンスがすごい! 「うどんこ吹雪」「乱れたこ撒き」といった派手なアクションを連発、焼き上がったたこ焼きを鮮やかなピックさばきでひっくり返しまくる「たこ焼き大車輪」……ばかばかしくもなぜか感動的!
たこ焼きに人生を賭けた男の、一世一代の名シーン、ぜひ見てほしい!
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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