話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『プラチナエンド』
『プラチナエンド』第1巻
大場つぐみ(作) 小畑健(画) 集英社
(2016年2月4日発売)
『DEATH NOTE』、『バクマン。』で知られる小畑健(作画)×大場つぐみ(原作)のコンビが新たに挑む最新作『プラチナエンド』。
今作は「人と天使の物語」であり、テーマは言ってみれば「生きる幸せ」──そう聞くと、まるで『DEATH NOTE』とは対象的なハートフルで慈愛に満ちたテイストなのかと感じるかもしれない。
しかし、もしそう思ったのであれば、その予想は物語の冒頭で木っ端微塵だ。なにせ、いきなり主人公が生きることに絶望して、中学校の卒業式後にマンションの屋上から飛び降りてしまうのだから。
自殺した少年の名は架橋 明日(かけはし・ミライ/通称ミライ)。
かつては両親の愛に包まれた暮らしをしていたが、7歳のときに事故によって家族が死亡し、人生が激変。
叔母の一家に引きとられたが、そこで待っていたのは奴隷のようにこき使われ、うさばらしのはけ口にされ、しかも満足な食事も金銭も与えられないという地獄のような日々であった。
果てしなく続く虐待、そしてだれにも存在すら認めてもらえない人生に絶望したミライは、どうにか中学校の卒業までは生きてみたものの、なんの希望も見つけることができないまま、「幸せになりたかった」とつぶやいて飛び降り自殺を図る。
しかし、死んだと思いきや、目を開けた明日の目の前にいたのは、まさに「絵に描いたような天使」の姿をした少女。
聞けば飛び降りる直前に「幸せになりたい」とつぶやいた願いを叶えるために助けたのだというが、今のミライの望みはむしろ自身の死。
だが、まったく話が噛みあわないままに「自由」と「愛」の力を与えられ、何ごともなかったかのように日常に戻されてしまう。
「自由」の力とは、「人間の目に見えない早さで飛べる」という翼。そして「愛」の力は「刺さった相手が33日間自分を熱烈に愛する」という赤い矢。
そんな突拍子もない力を与えられたと言われても半信半疑(というか、ほぼ疑念)のミライだったが、試しに「出ろ…エンジェルウィ~ング とか、か?」と冗談めかして使ってみた翼の力はまぎれもなく本物。自由自在に空を飛ぶ快感に身を任せたミライは、久しく忘れていた「生きる希望」をわずかに感じる。
──と、ここまでなら希望に満ちた物語のようであるが、そんなキレイごとで終わるはずもない。なにせナッセと名乗る天使の少女、言うことがいちいち「盗む」だの「心をコントロールする」だの、あっけらからんとした表情で物騒なことをズケズケと言ってのける。
しかもミライの両親は、じつは叔母の一家に殺されたのだということを教えてしまい、結果的に「赤の矢」で言いなりになった叔母が自殺してしまう黒さ。
これでは天使どころか悪魔としか思えないのだが、悪魔の存在は(天使が存在するのに)完全否定し、「もし悪魔がいるとすれば、それは人の心の中」と言い放つのがまた恐ろしい。
だが皮肉にも、凄惨な死をとげた叔母の姿を見たミライは、初めてと言ってもいいほど強く、現実に生きている自分を実感する。「今まで何やってたんだ、俺… 家族の分まで幸せにならなきゃ…」と……。