日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー! 今回紹介するのは『学糾法廷』。
『学糾法廷』第3巻
榎伸晃(作) 小畑健(画) 集英社 ¥400+税
(2015年8月9日発売)
原作者・榎伸晃は2009年に「陸王」で「JUMPトレジャー新人漫画賞」に佳作入選して、今回が初単行本という新人。いっぽう、作画を担当するのは『DEATH NOTE』、『バクマン。』などを手がけた小畑健。このふたりがタッグを組んだミステリマンガが本書『学糾法廷』である。
いじめ、体罰――そうした教育現場の問題を解決すべく、政府は全国の小中学校に「学級法廷制度」を導入した。事件が起こったクラスには、国から検察官、弁護士が派遣されるのだが、彼(彼女)らは小・中学生である。
そして、判決を下すのは「ベビー」と呼ばれる幼稚園児のこども裁判官(幼稚園児なのは、「中途半端に年端がいってると偏った判決を下しかねない」という理由からだ)。こうして「子どもたちの 子どもたちによる 子どもたちのための」仁義なき“学級会”が開催される。
こうした世界観を受容できるかいなかが、まずは本書を楽しめるかどうかの分岐点になる。ありえないと拒否するか、よく考えたねぇとおもしろがれるか。そして、設定がOKなら、あとは中身の問題となってくる。
向日葵市立天秤小学校の6年3組に、犬神暴狗(いぬがみ・アバク)と判月鳳梨(はんづき・パイン)という2人の転校生が現れた。ふわっとした雰囲気の美少女・鳳梨は検察官、そして転校生早々担任を論破した暴狗は弁護士だ。
2人はクラスで飼っていた魚のスズキがバラバラになった事件を追究するために、派遣されたのである。
スズキは、担任の秋元茜が「食育」のために持ちこんだもの。最後は食べることになるのだが「スズキくん」と名づけて飼ううちに愛着がわいてきて、土壇場で「食べる」「食べない」でクラスが割れた。
両方の対立が激しくなったため、投票をすることとなり「食べない」派が1票差で勝利した。だが、その3日後バラバラになったスズキが水槽で発見された。
容疑者は、いきもの係の七星てんと。彼は、前の日の放課後に「スズキくん」を最後に見ただけでなく、彼のハサミからは魚のウロコが発見されていたのだ。
鳳梨がてんとの犯行の証拠を積み上げ、生徒たちの心証が「有罪」に傾いたところで、暴狗は「反撃の証……整ったり!!」と反論を開始する。
小学校を舞台にする以上、発生する「事件」も小学校らしいものとする必要がある。
「食育」で飼っていた魚がバラバラになったとか、宿題で提出した絵が酷似していた「盗作」騒動とか、本書ではそうした点に配慮されている。そうした題材の制約を考えれば、全3巻でまとめたのは賢明であったと考える(そのなかで、暴狗の過去や“学級法廷制度”導入の契機となった「血の学級会」事件の真相も描ききっており、尻切れトンボ感はない)。
ちなみに、本書は「週刊少年ジャンプ」連載時には、暴狗が犯人を指摘したところで終わり、完結話はウェブコミックの「少年ジャンプ+」に掲載された。こうした完結のさせ方が可能になったのも、ウェブ時代ならではだと思う。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。『本格ミステリベスト10』(原書房)にてミステリコミックの年間レビューを担当。最近では「名探偵コナンMOOK 探偵少女」(小学館)にコラムを執筆。また「ミステリマガジン」9月号にコミック評が掲載されています。