日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『僕だけがいない街』
『僕だけがいない街』第8巻
三部けい KADOKAWA ¥580+税
(2016年5月2日発売)
「ヤングエース」(KADOKAWA)誌上で、2012年7月号から連載されてきた、三部けい『僕だけがいない街』は2016年4月号で完結し、この5月に最終巻となる第8巻が発売された。
3年連続で「マンガ大賞」の候補作となったサスペンスコミックスを、完結したこの機会に楽しんでいただきたい。
『僕だけがいない街』は、「再上映(リバイバル)」という能力を持った青年・藤沼悟が、その力を使って2006年から1988年にタイムスリップし、自分の同級生らが犠牲者となり、無実の人物が犯人として逮捕された、連続誘拐殺人事件を阻止すべく奮闘するというもの。
1988年に戻った悟は、大人の心と頭脳は持ちながらも、外見は小学5年生に戻っている。
過去の事件の知識はあるものの、どうすれば防げるかは自分で考えなければならない。しかも、小学5年生ではできることも限られている。
そんな制約があるなかでの悟の試行錯誤ぶりが、読者をハラハラさせてくれる。そこが本作のおもしろさである。
二度、失敗した悟だが、2006年から再び「再上映」で戻った3度目の1988年では、悟自身の成長もあり、仲間の協力も得られて、事件を防ぐことができたのだが……と、これ以上の紹介はネタバラシになるのでやめておく。
だから、第8巻では、悟は連続誘拐殺人事件の“真犯人”と対決し、『僕だけがいない街』という題名の意味合いが、じんわりと伝わってくるとだけ伝えておこう。
ところで『僕だけがいない街』は、メディアミックスも活発に行われた。
伊藤智彦監督の手によりTVアニメ化がなされ、藤原竜也主演による映画も公開された(平川雄一朗監督)。さらに言えば、原作とは別視点で描かれた小説『僕だけがいない街 Another Record』(一肇・著)も発表されている。
第8巻の巻末のあとがきマンガ「非日常な日常」によれば、第2巻が刊行された2013年6月頃から、三部けいは映画・アニメの制作者サイドと意見交換をしていたようだ。
そうした綿密な打合せの結果か、原作の完結にタイミングを合わせるように、アニメは3月25日に最終回を迎え、映画は3月19日に公開された(小説も3月に書き下ろし部分を追加して刊行された)。
完結のタイミングは合わせたものの、内容に関して言えばマンガ、アニメ、映画それぞれが異なる結末を迎える。
筆者は、アニメ版の結末が好みなのだが、みなさんはどうだろうか? 可能であれば、三者三様の結末を見比べてほしいところだ。
なお、三部けいは「ヤングエース」(KADOKAWA)の7月号(6月発売号)から、『僕だけがいない街外伝(仮)』の連載を開始するとのこと。描きたかったけれども、本編では割愛せざるをえなかったエピソードを「ただ描きたくて描かせてもらう」(by三部けい)ということらしい。
『僕街』ファンとしては、引き続き作品世界を楽しめるわけで、非常にうれしいことである。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)で国内本格ミステリ座談会とミステリコミックの年間総括記事等を担当。また現在発売中の、「ミステリマガジン」5月号(早川書房)でミステリコミックレビューを担当。