日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『冬目景作品集 空中庭園の人々』
『冬目景作品集 空中庭園の人々』
冬目景 幻冬舎 ¥630+税
(2016年4月23日発売)
2011年から2016年にかけて、著者が「月刊コミックバーズ」で発表した読み切りをまとめた短編集だ。収録作は「ELEMENT7」、「コビト事情」、「Apartment of the Dead」、「夕闇古書市」、「天国のドア」、「青密花」の6本。こうした単行本はタイトルを収録作からとるケースが多いように思うが、「空中庭園の人々」という作品は収録されていない。
「ELEMENT7」では宇宙人、「コビト事情」ではコビト、「Apartment of the Dead」ではゾンビ、「夕闇古書市」では本の怪異、「天国のドア」では死後の世界の門番……平凡な日常を生きる若者たちの前に、不思議な存在が姿を見せる。おそらく、こうした日常と地続きの、ほのかな非日常の感覚を「空中庭園」と言い表したのだろう。
最後に置かれた「青密花」もモチーフを共有するのだが、いささか物語の趣は異なる。
主人公の死んだ姉宛に届いた、奇妙なメール。その謎を追いかけるうち、妹は、姉とある男性の秘めやかな愛を知る……。谷崎潤一郎を思わせる、禁忌と死をめぐる物語は、著者の真骨頂だ。
息のつまりそうな日常のなかで、そっと開いて、心なぐさめられる。そんな1冊だ。
<文・後川永>
ライター。主な寄稿先に「月刊Newtype」(KADOKAWA)、「Febri」(一迅社)など。
Twitter:@atokawa_ei