人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、岡部閏先生!
複数のプレイヤーが“特定の世界”に集うオンラインゲームを舞台にして、壊れかけの家族模様を描く『グッド・ナイト・ワールド』。
掲載サイトの「裏サンデー」とマンガアプリ「マンガワン」では、アクセス数ランキング上位をキープ。ヴァーチャルとリアルのボーダーを軽々と超えてマンガに落とし込んでみせる岡部閏という漫画家は、ただ者ではない。
しかし、その正体は作品以上に謎のベールに包まれている。そこで『このマンガがすごい!』編集部は、史上初となる岡部閏先生へのロングインタビューを敢行。
唯一無二の世界観の源流からパーソナルな質問まで、あますところなくおうかがいした。
ロングレビューでの紹介はコチラから!
日刊マンガガイドでの紹介はコチラから!
新企画“神回特集”での紹介(第20話&第24話)も絶賛公開中です!
そしてなんと、第20話と第24話の無料マンガも期間限定でコチラから読めます!
連載開始まで紆余曲折しかなかった!?
開始1ヵ月前に岡部先生が、まさかの……
――まずは、『グッド・ナイト・ワールド』が立ち上がるまでの経緯を教えてください。
岡部 (主人公の)太一郎や明日真といった家族というキャラクターと、仮想現実・人工知能というストーリーはもともと別物として考えていました。紆余曲折を経て、その2つが合致する形で、立ちあがりました。
――本作はいろいろな要素が混在していますが、『グッド・ナイト・ワールド』を簡潔に紹介するとしたら、なんというべきでしょうかね?
岡部 ほぼ完璧に近い仮想世界・人工知能が存在し、それが現実と人間たちにどう作用するか、その過程を楽しむ物語です。
――なるほど。コミックス第1巻のPRページのマンガに「10話までの打ち合わせ分を全部ボツにして、別のネームを描いてきた」とあって驚いたのですが、なぜ、そのようなことになったのでしょう。
岡部 前作終了後、編集長と担当さんが2人がかりで新連載の立ち上げに協力してくださったのですが、開始1カ月前になって「納得いかないので、イチからやり直させてくれ」と自分から頼みこみました。
――もともとのネームは、どんな内容だったのですか?
岡部 「2Pカラー」という不仲な兄弟が協力し、ゲームを題材にした敵に立ち向かっていくマンガでした。キャラの造形に関しては満足のいくものだったのですが、話の部分や構成に、どうしてもおもしろいという確信が持てずにいたんです。
そんな僕の不安を察して、編集長も担当さんも「大丈夫、おもしろいよ」と言ってくださっていたんですが、このまま連載を始めても続けられる自信がなく、「キャラクターはそのままで、プロットを練り直させてほしい」とお願いしました。
――主人公の太一郎=イチはかなりの曲者ですよね。実在のモデルはいるのでしょうか?
岡部 最初こそ、モデルは中学時代の僕自身だと思っていましたが、いざ連載が始まり、人となりを掘り下げていくにつれて、「これは僕ではないな」と感じるようになりました。「じゃあ、だれなんだろう?」と考えた時、後になって思い当たる人物がいました。
その後は意識的にも無意識的にも、彼をイメージして描いています。ちなみにその彼は世界レベルのゲーマーなのですが、代償にあらゆるものをかなぐり捨てた世捨て人です。
――『グッド・ナイト・ワールド』は「裏サンデー」の即日ランキングで首位に立つこともありますが、読者に支持を受けている理由はどこにあると感じていますか?
岡部 そうそうたる作品群のなかで、自分の作品がランクインしているのを目にするのは、うれしい反面とても恐縮です。心がけているのは毎週ひと言であってもコメントがしやすい、「かっこいい」「怖い」といった簡単な感想を持ちやすいような話づくりをすることでしょうか。
作品のおもしろさにつながっているかはわかりませんが、「人気の度合いがランキング形式でいつでも見ることが可能」というシステムを意識してクセをつけているからではないかと思います。
――ということは、けっこうコメントは拝見されているんですね。
岡部 「マンガワン」のコメント欄は欠かさず見ています。特に日曜の更新直後は2時間おきにチェックしています。読んでくださったテンションそのままでの感想はとてもありがたいですし、批判も少ないです。
――ツイッターなどのエゴサーチもされるのでしょうか?
岡部 SNSも同様ですね。曖昧な呼び方やタイトルの略称を使っている方も多いので、検索は工夫しています。
逆に匿名性の高いところは見ないようにしています。批判も含め、あらゆる意見が集まりますし、深い考察に基づいた感想なんかを目にすることで、作者である僕自身が今後の展開に不安を抱いてしまったり、作品に関する信念のようなものがブレる原因になりかねないからです。
ただ、とある方から「完結後はしゃぶるように感想を読め」と言われたので、前作(『世界鬼』)の終了後は、地の果てまで感想を探しました。残念ながら感想自体ほとんど見つからなかったのですが……。
未公開情報!?
『グッド・ナイト・ワールド』の根源、そして今後の展開に迫る!!
――本作の大きなテーマは「家族」。岡部先生にとっての家族はどんな存在でしょうか。また、作品に反映されている部分はあれば教えてください。
岡部 自分にとっての家族という存在……。じつは事前に送っていただいた質問状を見たとき、この質問の答えを考えるのに、大げさじゃなく30分以上を費やしてしまいました。
もちろん、意識的、無意識的にかかわらず、このマンガのあらゆる部分にその影響が反映され、取り入れられています。ですが家族とは何か……という答えは出ないですね。じつの家族に対する意見ではなく、僕の理想とする家族像という意味で答えるならば、「地上最後の拠りどころ」でしょうか。
――現在最新第2巻が絶賛発売中です。第2巻の「ココを見てほしい!」というポイントは?
岡部 主人公である太一郎はもちろんですが、その周囲の人間たちを見てほしいです。
――ネタバレのない範囲で、ぜひ今後の展開を教えいただきたいです。
岡部 現実世界と仮想世界の垣根がどんどん取っ払われて、なくなっていく様を描いていきます。……たぶん。
そして何よりも、垣根がなくなっていくことを喜んでいいのか、悲しんでいいのか、はたまた恐怖するべきなのかわからず当惑する太一郎たちは、必ずどこかで描かなくてはならない部分です。
――物語はエンディングまで決まっているのでしょうか? それとも転がる石のように、どこにたどりつくのか不明なのでしょうか?
岡部 エンディングまでは決まっていません。むしろ一切着地点の見えていない真っ白な状態です。でもそれを悪いこととは思っていなくて、キャラクターたちが考えて行動して生きた結果こうなった、というエンディングのほうが美しいと思っているので、考えないようにしているといったほうが正しいですかね。
――岡部先生、ありがとうございました!
連載開始前の段階から、こだわり抜いた岡部先生の作品への愛が伝わってきます! ですが、これでも岡部先生の一部に触れたにすぎません。
『グッド・ナイト・ワールド』の深部やベールに包まれた岡部先生自身に、さらに迫るインタビュー第2弾は近日更新予定、お楽しみに!
取材・構成:奈良崎コロスケ