『手塚治虫文庫全集 タイガーブックス』第4巻
手塚治虫 講談社 930+税
文政8(1825)年7月26日、江戸の中村座にて歌舞伎『東海道四谷怪談』(鶴屋南北・作)が初演された。
四谷怪談といえば、有名な「お岩さん」である。『東海道四谷怪談』のあらすじは、夫・伊右衛門に裏切られ、無残にも殺害された岩が、幽霊となって伊右衛門に復讐を果たすというもの。これにちなみ、今日は「幽霊の日」とされている。
『東海道四谷怪談』は、歌舞伎だけでなく、のちに小説や映画にもなり、かの手塚治虫も短編の題材とした。それが『四谷快談』だ。
本作の舞台は昭和27年の四谷。手塚が四谷に下宿していた頃、近所にフダつきの戦災孤児・平公がいた。悪さばかりをしていた平公とお岩さんが、なんと共同生活をすることになる……というストーリー。
お岩といえばとかく恐ろしげに描かれがちだが、かいがいしく平公の面倒を見るお岩の姿は、まるで母親のようである。
ちなみに本作は、手塚治虫文庫全集の『タイガーブックス』第4巻のほか、『手塚治虫名作集2 雨ふり小僧』(集英社文庫)にも収録されている。巻末のあとがきを担当したのは、落語家・立川談志。
談志が得意とした古典落語の演目「野ざらし」という噺には、回向してもらった骨の主が幽霊(女)となって現れ、恩返しのために酌をするという場面がある。日本の伝統的な大衆娯楽の世界では、必ずしも「霊=恐ろしい存在」とは限らないのだ。
してみれば、手塚版・お岩の姿も、日本の伝統的な幽霊像のひとつといえるのかもしれない。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。