複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。
今回は、「安野モヨコ作品が『シン・ゴジラ』に及ぼした影響」について。
『映画『シン・ゴジラ』公式記録集 ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』
庵野秀明(編) カラー、東宝(監) グラウンドワークス ¥9,800+税
(2016年9月20日発売)
そろそろ夏も終わろうとしているが、まだまだ『シン・ゴジラ』の勢いはとどまるところを知らない。
2回目、3回目と繰りかえし鑑賞するリピーターが続出し、先週8月25日には全国の劇場でIMAXでの再上映が開始。
デッカい画面でデッカいゴジラを観るチャンスが再びめぐってきたところだ。
ゴジラ・フィーバーは過熱するばかりで、2016年の夏は「シン・ゴジラの夏」として記憶されることだろう。
『アオイホノオ』第1巻
島本和彦 小学館 ¥552+税
(2008年2月5日発売)
その「シン・ゴジラの夏」の一端を担ったのが、漫画家の島本和彦である。
夏のコミケ(C90)では、自作『アオイホノオ』の主人公・焔燃(ホノオ・モユル)がヒロインのトン子さんと一緒に『シン・ゴジラ』を鑑賞し、感想を叫ぶ同人誌『アンノ対ホノオ』を頒布。テレビドラマ版の「アオイホノオ」キャストに寄せた絵柄も話題となり、コミケ3日目の東京ビッグサイト西館には長蛇の列ができた。
8月15日には東京・新宿バルト9で島本先生を招き、発声・コスプレ・サイリウムOKの「発声可能上映会」を開催すると、特別ゲストで『シン・ゴジラ』の総監督・庵野秀明が飛びいり参加し、会場を大いに盛りあげた。
現在、小学館が運営するwebサイト「サンデーうぇぶり」にて、前述の同人誌『アンノvsホノオ』が8ページだけ限定公開され、さらに『アオイホノオ』からホノオとアンノが対峙する回を選りすぐってこちらも無料公開中。
ちなみに『アオイホノオ』の単行本第1集には、巻末に島本和彦と庵野秀明の対談も掲載されており2人仲良くウルトラマン・ポーズを決めているので、そちらも大注目だ。
世代を超えたファンが、オタクが、業界が、みんなこぞって『シン・ゴジラ』を盛りあげようとした気運が、大きなムーブメントを巻きおこしたのである。
『監督不行届』
安野モヨコ 祥伝社 ¥800+税
(2005年2月8日発売)
さて、庵野総監督が登場するマンガといえば、『アオイホノオ』ばかりではない。
奥方・安野モヨコの『監督不行届』では、カントク(庵野総監督)との夫婦生活の一端が披露される。
伴侶として、またクリエイターとして、安野モヨコの影響力ははかりしれないものがあるはずだ。
なにしろ『シン・ゴジラ』のエンド・クレジットには、「安野モヨコ」の名前もクレジットされているし、家電量販店のテレビにアニメ版『オチビサン』(原作は安野モヨコ)が映っているのだから、がぜんモヨコ作品への注目度も高まるというもの。
といったところで今回は、モヨコ作品が『シン・ゴジラ』に及ぼした影響について探っていこう。
『ジェリービーンズ』第1巻
安野モヨコ 講談社 ¥419+税
(2005年10月13日発売)
まずは『ジェリービーンズ』。
主人公のマメこと遠藤豆子は服飾デザイナーを夢見る中学生。
おしゃれでイケメンのカリスマ高校生・福田蘭堂と出会い、彼のデザイン画に衝撃を受け、同じ高校を受験しようとする。
自分の限界を感じて、何もかも放りだしたくなったマメに対して、蘭堂がいった「それでも服を作る」のセリフは、クリエイターに限らず、どのような職業に従事している人の胸にも刺さる言葉ではないだろうか。
なお、『シン・ゴジラ』の主人公である内閣官房副長官の名前は、矢口蘭堂(演:長谷川博己)という。これはもちろん福田蘭堂から取っていると思われる。
『ハッピー・マニア』第1巻
安野モヨコ 祥伝社 ¥857+税
(1996年4月発売)
次に紹介したいのが『ハッピー・マニア』だ。
主人公の重田加代子(シゲカヨ)は、“恋の暴走列車”と呼ばれるほど理想の恋を追い求めてつっ走る20代の女性。自己評価が低いわりに、モテ男に特攻をしかけては玉砕する。
「あたしみたいな女の子スキになんかならないカッコイイ男の子」を探していたら、そりゃあウマくいくわけがない。
そのシゲカヨとルームシェアしているのが、クールだが面倒見のいい親友の福永ヒロミ(フクちゃん)。
そのフクちゃんと運命的な恋に落ちるのが、東紅商事の人事担当・藤堂秀樹。
また、フクちゃんの紹介で転職したシゲカヨの上司となるのが、デパートの化粧品売り場の主任・坂巻麗子。
『シン・ゴジラ』に出てくる米国大統領特使のカヨコ・アン・パタースン(演:石原さとみ)、日本の防衛大臣の花森麗子(演:余貴美子)、環境省自然環境局野生生物課長補佐の尾頭ヒロミ(演:市川実日子)といったヒロイン・チームは、いずれも『ハッピー・マニア』のキャラクターから名前を取っているようだ。
なお、主人公の補佐役の赤坂秀樹(演:竹野内豊)の名前も、この作品に由来する。
『働きマン』第1巻
安野モヨコ 講談社 ¥514+税
(2004年11月22日発売)
そして最後に『働きマン』。
28歳独身の松方弘子は、雑誌「週刊JIDAI」の編集部員。昼も夜もなく、寝食も忘れ、プライベートな時間を削りまくり、「働きマン」になって仕事に没頭する。
『シン・ゴジラ』では、電車内に週刊誌「JIDAI」の広告が掲載されているのだ。
『働きマン』は2006年にはフジテレビ系列でアニメが放映され、さらに2007年には日本テレビ系列でテレビドラマが放映されたほどの人気作だが、掲載誌「週刊モーニング」に続編が載ることはなく、未完のまま。
それでも『シン・ゴジラ』で広告を見かけたからには、弘子はあいかわらず編集長をめざして働いているのだろうかとか、梅宮達彦編集長はあいかわらず押しだしの強いガッハッハ親父なのだろうかとか妄想はふくらむ。
このように『シン・ゴジラ』には、まだまだ見落としている小ネタがいっぱい仕こまれているはずだ。
まだ観ていない方は純粋にストーリーを楽しみ、2回目以降の方はいろいろな小ネタやネタ元を探りながら観るのもオススメである。
そしてマンガ好きのわれわれとしては、今回の『シン・ゴジラ』のコミカライズも期待してやまない。
作画はもちろん安野モヨコ……ではなくて、あえてここは島本和彦先生でどうだッ!
先生ッ、待ってますよッ!! まずは次のコミケで!!!
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama