話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『アンの世界地図 ~It's a small world~』
『アンの世界地図 ~It's a small world~』著者の吟鳥子先生から、コメントをいただきました!
『アンの世界地図 ~It's a small world~』第5巻
吟鳥子 秋田書店 ¥429+税
(2016年8月16日発売)
人と家にまつわる運命の物語。吟鳥子の『アンの世界地図』が5巻で完結を迎えた。
徳島の古民家を舞台にした少女の田舎暮らしもの。そんなオーソドックスな筋書きを予感させる1巻が一転、2~3巻では100年前に徳島にあった捕虜収容所で暮らすドイツ兵の人生へと焦点は移る。
世代も時間も国籍も飛び越える、大胆な構成。「世界地図」の名の通り、まるで地図の縮尺をポンポンと切り替えるかのように、物語世界が拡がっていく。この先どうなるのか、驚きと期待感に胸がおどった。
そして最後は、東京から来た家出少女アンと、古民家に引きこもる和服姿のアキの再出発のストーリーとして、すがすがしく幕を閉じた。
家や家族。そうしたものの呪縛はだれにでもあるだろう。アンとアキはそれに押しつぶされてしまうのか、あるいは受け入れ、はねのけ、前に進むのか。
絵柄はふわっとした感じで柔らかく、ドタバタな展開でクスッとさせられる箇所も多いが、物語の奥には強いメッセージが隠れている。
それでは、ストーリーを振り返っていこう。主人公は飲んだくれの母親からネグレクト(育児放棄)されていた16歳の少女アン。酔った母に大事にしていたロリータ服を引き裂かれたアンは、幼い時に会ったきりの祖母がいるはずの徳島へ家出する。だが、住所が書かれたはがきが風で飛ばされてしまい、行くあてをなくす。
そんなアンを見かねて家に泊めたのが、同い年ほどの中性的なアキ。アキは築200年の立派な古民家にひとりで暮らしていた。徳島でもロリータ服に身を固め、自分を守るアンだったが、少しずつ周囲の人々とも打ち解けていく……。そんな矢先、大谷焼の窯元でドイツ兵・マイズナーの幽霊に出会うアン。マイズナーは、第一次世界大戦時の板東俘虜(ふりょ)収容所の思い出を語り始める。彼と捕虜仲間たちはアキにそっくりの日本人少女・秋に憧れていた……。
東京の少女と田舎という取りあわせは定番だが、そこに大昔のドイツ兵が関わってくるという展開は新鮮だ。また、語り手が人ではなく、アンとアキが暮らす古民家というのも珍しい。ヨーロッパでは、屋敷を切り口に歴史が語られることがしばしばあるが、日本の場合は何百年ももつ建物が少ないため成立しにくい。
だが、思えば、貴族が住む屋敷ではないが、古民家もそこに住む人々の生き様を見つめ続けてきた存在。
不動の古民家を語り手に据えたことで、『アンの世界地図』は時に奔放に跳ねながらも、どっしりとした作品としてのたたずまいを有している。