最終巻となった5巻では、これまで振られてきたそれぞれのエピソードに決着がつく。
アキと祖母(秋の娘)のすれ違う想い、古民家に眠る触れてはならない秘密、その秘密に縛られるアキ……。
そんなアキと「家族になりたい」と願うようになったアンは、アキの呪縛を解こうとする。そしてアンも自らを見つめ直す。
家も家族も洋服もあくまで外側であり、自分自身がどう考え、どうとらえるかでその意味も変わってくる。アンとアキはそれに気づき、目に映る世界がひろがったのだ。
個人的には5巻で完結というのは少しだけ惜しい気もする。まだ、古民家が見てきたものはたくさんあったろう。
とはいえ、5巻というのは短期間で一気に読み切り、感慨にふけるにはちょうどいいサイズ。何より、アンとアキ、2人の自立という主題ではきれいにまとまっている。
余談だが、徳島の美馬市には作中の古民家のモデルとなった家があり、一般に公開されているという。
また、徳島には「お接待」文化と呼ばれる気風があり、困った旅人を放ってはおけないのだそうだ。
時間があったら、『アンの世界地図』をポンッとカバンに入れて、徳島の古民家のある町並みを眺めに行くのもいいのではないか。
ここが、アンを救った場所なのだ。
<文・卯月鮎>
書評家・ゲームコラムニスト。週刊誌や専門誌で書評、ゲーム紹介記事を手掛ける。現在は「S-Fマガジン」(早川書房)でファンタジー時評、「かつくら」でライトノベル時評を連載中。
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