日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ハピネス』
『ハピネス』 第4巻
押見修造 講談社 ¥429+税
(2015年10月7日発売)
『ぼくは麻理のなか』もついに完結を迎えた。押見修造の最新刊。
「異色の吸血鬼もの」である本作だが、そもそも吸血鬼ものの根底には人間における根源的テーマである「死と性」に対する恐怖と憧れがある。
一時の快感の代償として、永遠に苦悩と葛藤を抱えながら生き続ける者たち。愛する者とともに生きるには、相手を仲間にして自分と同じ地獄に突き落とさなければいけない運命。
それらは物語が展開するにつれ、「理性と本能のせめぎあい」や「愛=同化=自己実現」といった押見作品のキーワードと絶妙なリンクを描きだす。
血を欲する衝動につき動かされながらも、人を殺さぬよう生きる方法を見つけてともに生きようとノラを説得する岡崎の姿には、深い業を背負いながらも、必至でそれに抗おうとする「人間の本性と希望」を感じずにいられない。
子どもから大人に変わろうとする思春期の少年が吸血鬼となり苦悩する――という設定は、かつて楳図かずおが『楳図かずお恐怖劇場 へび少女』に託したテーマを彷彿させるものもあり。こりゃ、著者にとってとんでもない真打ち作になりそうな予感も。
本巻ラストでは、旅出とうとする岡崎とノラの前に、吸血鬼の存在を知る謎の組織が登場。
岡崎と同じ吸血鬼となりながらも、彼とは対照的な道を歩もうとする少年・勇樹とのカラミも気になるところで、次巻以降、ダークファンタジーとしての盛り上がりにも期待!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69