人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、平尾アウリ先生!
祝★『このマンガがすごい!2017』オトコ編第12位ランクイン!
「月刊COMICリュウ」で連載中の、とある地下アイドル「Cham Jam」とオタクたちのエネルギッシュな日々を描く『推しが武道館いってくれたら死ぬ』。
平尾アウリ先生の描くかわいらしい女の子と、オタクたちの過剰な(でも共感の声多数!)愛情表現が多くの読者の胸を打ち、大ヒット!
今回は、著者の平尾アウリ先生に、「Cham Jam」メンバーの実在のイメージモデルなど、本作の誕生秘話をたっぷりおうかがいしました!
打ちあわせは「AKBカフェ」!?
――『推しが武道館いってくれたら死ぬ』が、『このマンガがすごい!2017』オトコ編第12位にランクインしました。まずは率直な感想をお聞かせください。
平尾 「まさか!」「なぜ!?」という気持ちで、最初お聞きしたときから発表までのあいだ、本当なのかと疑い続けていました。なので、すぐに素直に喜べず、編集の方には申しわけがなかったです。
――それはまたどうしてですか。
平尾 「このマンガがすごい!」は以前から存じあげてましたし、「すごい」マンガが選ばれるものだから、「私には無縁なものなんだろうな」と思っていました(笑)。
今までこのようなことがなかったので、たくさんの方に読んでいただけたこと、注目していただけたことにとても感謝しておりますし、昔から変わらず応援してくださった方々に、これで少しでも恩返しができたのでしたら、よりうれしいです。
――『推しが武道館いってくれたら死ぬ』は、主人公がアイドルオタクです。これまでアイドルやアイドル業界を題材にした作品は存在しましたが、アイドルオタクにスポットを当てた作品は珍しいな、と思いました。その理由は?
平尾 アイドルが好きなもので、アイドルを私が描くのはおこがましいけれど、「アイドルを愛する気持ちなら描けるぞ!」と思ったからですね。
――この作品は、どういったところから着想を得たのでしょう?
平尾 もともと、4ページの小ネタを何本も提出したなかに、たまたまこの作品の元ネタになったものがありまして、私がアイドルを好きだったことと、担当編集の方がアイドルをお好きだったことで、これを半年後から連載しませんかというお話をいただきました。
――平尾先生ご自身が、アイドル好きなんですね?
平尾 そうです。私がアイドルを好きなことは編集の方にはいっていました。けれど、好きなものを描くことに抵抗があり、アイドルネタでいくことに迷いもありました。そのため、誌面上ではバレないようにしていたのですが……。
――いや、読者は気づいていたと思いますよ。
平尾 そうですよね。結果的に今は毎日楽しくお仕事させていただけています。
――この『推しが武道館いってくれたら死ぬ』というタイトルなんですけど、ものすごくインパクトがありますよね。どうやって決まったんでしょうか?
平尾 まず、「AKBカフェ」で打ちあわせしまして(笑)。
――バッチリのロケーションですね(笑)。
平尾 その時に「推しにはやっぱり武道館に立ってほしいな〜! 武道館いってくれたら死ぬな~!」みたいな話になり……。たいへん軽いノリで決まりました。ただ、「武道館に」の「に」はいるのか、「いってくれたら」はひらがなでいくのか、は話しあいました。少しだけ……。
――既存のアイドルを題材にしたマンガは、メジャーシーンのアイドルを扱ったものが多かったのですが、本作はどうしてライブアイドル(ロコドル、地下アイドル)を題材にしたのでしょうか?
平尾 私自身はどちらのオタク活動もしたことがありまして、メジャーアイドルにはもちろんメジャーのいいところがあると思っています。ですが、地下アイドルの“近いながらも近くない”ところに、より感情を動かされる部分があったので、私が描きたいと思ったのはこちらの地下側でした。
――本作は舞台が岡山ということで、岡山駅の郵便ポストなど、岡山の名所やランドマークが作中に登場します。
平尾 じつは、当初の設定では岡山ではなかったんです。岡山というのは後づけなので、徐々に岡山の地名や実在するものを増やしていったかたちです。私自身は倉敷出身なのですが、倉敷市民でもわかる程度の岡山市の知識、ということで比較的わかりやすい地名が出ているはずです。
――主人公のえりぴよさんは、アイドルグループ「Cham Jam」の市井舞菜のTO(トップ・オタ)です。なぜ主人公を男性ではなく、女性にしたのでしょうか?
平尾 「男のオタクが女性アイドルに」というのは生々しくなってしまうというのと、やはり、デビューが百合マンガだったもので……。
――いわゆる“百合っぽさ”も本作の魅力のひとつだと思います。「これは恋」「これは友情」とひと口に断定できない感情の機微を描くのが平尾先生はとてもお上手だと、『まんがの作り方』の時にも感じました。そのあたりは、とくに意識されていることなのでしょうか?
平尾 異性愛と同性愛をわけて考えることができなくて、俗にいう男女間での友情は成立しないという話も私には理解できないので、恋だとしても友情だとしても相手のことは大切にしたいし好きだと思うじゃないですか。だから、そうですね、端的にいうと百合なのかどうなのか、恋なのか友情なのかの感情の違いは意識していません(笑)。
――ちなみに連載準備期間中には、どのあたりまで先のストーリーを想定していたのでしょうか? ラストはもう決まっていますか?
平尾 ラストだけは先に決まっていて、第1巻収録分もすぐにまとまりました。第1巻の中盤頃で、第2巻の流れも決まっていたように思うので、ストーリーに関してあまり悩んだことはないです。
――けっこう作中に、ドルオタ界隈の用語(積む、リア恋勢など)が出てくるじゃないですか。
平尾 はい。
――特に注釈がなくても、前後の文脈から理解できるようになっていると思ったんですよ。
平尾 理解できますか!? それならよかったです!
――作中で用語を使う時は、どのような点に気をつけているんでしょう?
平尾 実際にどこまで通じるのかわからない部分はあります。むしろ私は通じると思ってネームを出してしまうので、ネーム提出時に「これは注釈をつけてください」とよくいわれています(笑)。でも注釈が入るといったん話が途切れてしまうので、絵でなんとなく意味がわかるようにはしたいと思ってるんです。
――いや、通じます。充分通じてますよ。
平尾 ドルオタではない方には、絵ですら理解してもらえないかもしれないので、やはり難しいですね……。でも、用語を使わないオタクは少ないので、これからもたくさん使っていくことになりそうです……。
――連載開始後、読者の反応はいかがでしたか?
平尾 「推しにコミックスをプレゼントしました」とおっしゃっていただけることが多くて、非常に驚いております。「いいのか!? ふざけ倒してるマンガだぞ!?」みたいな……。
――かなりドルオタの読者が共感していますよね。そのリアクションは事前に予想できました?
平尾 まさかドルオタをやっている方からこれほど反響をいただけるとは、思っていませんでした。とても自由に描いていたので、私の思考が透けて見えることへの恐怖もありましたが、みなさんどうやら同じ考えをお持ちでいてくださったようで、やはりオタク同士通じるものがあるのだなと安心しております。
――とくに読者からの反応がよかった回はどこでしょう?
平尾 第2巻の眞妃とゆめりの回(第10話)はたくさんの反応をいただきました。今まで特に百合マンガを読んでこなかったという方にも受け入れていただき、うれしかったです。これね、私がアイドルマンガを描くのだとしたら、やりたいネタだったんです。