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『勤番グルメ ブシメシ! おかわり』 酒井伴四郎(作) 土山しげる(画) 青木直己(協) 【日刊マンガガイド】

2017/02/16


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『勤番グルメ ブシメシ! おかわり』


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『勤番グルメ ブシメシ! おかわり』
酒井伴四郎(作) 土山しげる(画) 青木直己(協) リイド社 ¥1,000+税
(2017年1月20日発売)


大老・井伊直弼(いい・なおすけ)の暗殺事件「桜田門外の変」直後に改元した万延年間。
今でいう単身赴任で、紀州和歌山藩から江戸勤番の衣紋方となった下級武士の酒井伴四郎は、詳細な食事の記録を主とした日記を残し、現代に伝わる。
その日記を原作としたマンガが、『勤番グルメ ブシメシ!』。
グルメマンガ・時代マンガの第一人者である土山しげるが手がけており、うなぎやどじょう、豚肉などを使った料理の湯気や香り、江戸の町の喧騒まで伝わってくるよう。

『幕末グルメ ブシメシ!』として、実写ドラマがこの1月からNHKBSプレミアムにて放映中で、主人公の伴四郎は『仮面ライダーキバ』の主役・紅渡でも知られる瀬戸康史が演じる。
瀬戸康史といえばNHKEテレの『グレーテルのかまど』にて、15代ヘンゼルに扮し、様々なスイーツを作る手際のよさには定評があり、その点では料理上手である伴四郎にふさわしい。
しかし、マンガの伴四郎は妻子思いの優しい男性ではあるが、「イケメン」というには疑問符がわくのだが……?

とりわけ新刊の「おかわり」は、家計が苦しく残りものの青菜で五目寿司を作ろうとしたものの、家来の直助に炊かせた飯がまずく、気落ちする……と、伴四郎の器の小ささがにじみ出た、少々もの悲しい始まりだ。
また、同じく江戸勤番として同行している叔父・宇治田平三のマイペースぶりに悩まされる記述も多い。特売の人参を買いこみ煮物にしておいたら勝手に食べられただの、自分の笠を勝手に使っただの、ほかにも彼の食い意地についてつづられ、まるで姑と同居する嫁のような恨みがましさだ。
「叔父上」も、後世にまで行状が知られるとは、なかなかに災難である。
しかし、それらを事細かに日記に残している伴四郎の人間くささには、読んでいてとても心ひかれ、共感が止まらない。
横浜の異人屋敷でチェスを見て驚き、攘夷派の代表格であった徳川斉昭の死を知る激動の時代のなかでも、これから何を食べようか、との幸せな悩みはあり続けたようだ。
平成の末になりそうな現在も、侍がいる幕末も、けっして異なる世界ではないと、腹の虫が教えてくれる。



<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。

単行本情報

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