日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ぱらのま』
『ぱらのま』 第1巻
kashmir 白泉社 ¥830+税
(2017年1月31日発売)
パラノーマル=paranormalとは、超常現象のこと。
パッと見「ぱのらま」つまり、パノラマ=panorama(広い眺望の視界)のことかなと思いつつ、よく見ると別の意味で、平仮名4文字でなかなか凝ったタイトルになっている。
なお、見間違いついでに「パノラマ」の話を続けると、名古屋鉄道(名鉄)には「パノラマカー」の相性で親しまれる前面展望席つきの車両がある。
急に電車の話を始めたのは、本作において「鉄道」が重要な位置を与えられているからだ。
現代日本(に似ていながら少しだけ異なった世界?)を舞台に、電車と徒歩で旅をする、いってしまえば本作はそれだけの作品だ。
旅、といっても散歩に毛が生えたようななにげないもので、つげ義春の現代版といった風情。
だがそれがいい。もちろん、旅先のウンチクは盛りだくさんで読みごたえもある。
駅弁を百貨店の催事場で購入し、その場で食べるのも興がそがれるので、駅弁を食べるためだけに特急電車に乗る、という贅沢をする第1話から本作は始まる。
「仕事
遊び
電車に乗る人は だいたい目的がある
そんな中ひとり 駅弁を食べるだけの ために乗っている
なんだかちょっと 申し訳ない気分に
は 特にならなかった」
「家の近所を 通過していく 特急
見慣れた風景も 微妙に違って みえる」
(第1話「駅弁大会」より)
というモノローグが端的に示すように、本作を満たすのはオフビートでゆったりとした空気感。
どこが「超常現象」だ! と思った読者もいるだろうが、主人公は駅弁を食べに富士山に向かい、そこでほんの少しだけシュールな体験をする。
『てるみな』が夢に着想を得た作品だったのと同様、本作も白昼夢のような、ユラユラとした微かな異界感がたまらない。『てるみな』と違っておもに現実の土地と鉄道会社が描かれていて、普通の旅ものマンガとしても読めるが、「旅」が帯びる異界の気配のようなものを現世側から感じる、そんな作品だ。これが『てるみな』のモノローグで語られた、モノレールの浮遊感、「日常におけるちょっとした非日常感」なのだろうか。
それにしても、本作第1話に登場した「京央百貨店」はたぶん『てるみな』に出てくる「京央電鉄」の関連なんだろうし、『てるみな』の比較的現実的な場面に登場するメガネの男性は本作の主人公の兄として登場してくる。本作のおまけマンガ的な回には『てるみな』の登場人物も出てくるけど、あちらの、より狂った世界観は今後さらに『ぱらのま』の世界へ流れこんできたりするのだろうか。
そうなってほしいような、それは怖いような……。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
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