『orange』第3巻
高野苺 双葉社 \620+税
(2014年8月22日発売)
「別冊マーガレット」での休載を経て、「月刊アクション」を掲載誌を移した本作。やきもきしながら続きを待っていたファンは多いだろう。
信州・松本に暮らす、高校2年の奈穂。彼女のもとに、ある日、1通の手紙が届く。その差出人はなんと、10年後の未来の自分。その手紙には、これから奈穂が経験すること、そのなかで奈穂に選んでほしい道が書かれている。
最初は半信半疑で、未来を知ることに怖さも覚える奈穂だったが、手紙に書かれた、友人の翔(かける)についての出来事を読み自分を奮い立たせていくことになる。
1年の始業式の日に、東京から転校してきて、奈穂や仲間たちともすぐに打ち解けた翔だったが、手紙には彼がある悩みを抱えていて、17歳の冬、命を落としてしまうということが書かれていた。
奈穂が立ちあがるのは、翔を救い、未来の自分の後悔を消すため。同時に、なにもできずにいる今の自分を変えていくためでもある。
翔に声をかける、手紙の返事を書く、お弁当を渡す。その行動は、大人から見れば小さなものと映るが、10代にとっては、これ以上ない大きな一歩だ。
未来が変わりはじめたことで、手紙に書かれたことと異なる出来事が発生する場合もある。
それでも奈穂は、自分で考え行動する。そして、そんな彼女を仲間たちが支える。特に、奈穂を想いながらも翔のためにがんばる須和の姿が、読者の胸を打つ
休載時からのお話となる3巻では、高校時代の須和もまた、10年後の彼自身から、手紙を受け取っていたという、驚きの事実が発覚する。また、まだ過去の自分に手紙を書く前にあたる、未来の奈穂のドラマも進んでいく。
大人の読者は、懸命に未来に挑んでいる過去の奈穂たちに、若い読者は、過去を引きずる未来の奈穂たちに、哀切を覚えるんじゃないだろうか。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。