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『一の食卓』 第5巻 樹なつみ 【日刊マンガガイド】

2017/06/09


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『一の食卓』

  
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『一の食卓』 第5巻
樹なつみ 白泉社 ¥630+税
(2017年5月2日発売)


謳っているのは、“時代劇&グルメコミック”。
たしかに主題のパンを含めた西洋料理の数々もそそられるのだけれど、うん、人生の――人というものと人が生きていくことの甘味や苦味や旨味の味わいこそ本作のグルメなのだなぁと、心で舌鼓を打たされる。

明治時代を舞台に、パン職人を目指す少女・西塔明(さいとう・はる)と、外国人居留地に流れてきた謎の男・藤田五郎との関わりを通して人間ドラマが展開される『一の食卓』の第5巻が発売された。
タイトルに“一(はじめ)”とあるように、五郎の正体はかつて“壬生の狼”と恐れられた新選組の三番隊組長・斎藤一。
今は新政府の密偵となっている斎藤は、西郷隆盛の命令のもと、ある目的のため外国人居留地に入りこんでいて、ひょんな流れから明といっしょに働くことになる。
強面ながら、深みと温かみ、そして影と過去を感じさせる五郎こと一。
そんな五郎に背中を押されながら、日々、パンづくりに励んで夢のために進んでいく明。
立場も境遇も違えど、それぞれある意味で社会的に認められない存在である2人の“さいとう”が、新時代を前へ向かっていくというのが、本作のベースで出汁、いわばブイヨンだ。

そんななか、最新刊第5巻で語られるのは、前の第4巻に続いて過去を舞台とした江戸編。
新選組入隊前の一こと山口一と、沖田総司や土方歳三との出会い、近藤勇と義父が館長を務めた天然理心流剣術の道場・試衛館の人々との触れ合いが描かれている。
やがて斎藤を名乗るようになった一は、江戸を離れて京都へ……。

いわば番外編的な部分で、それこそコース料理でいえば、前菜でもソルベ(箸休め)でもあるのかもしれない。
ただ、一のファンと作品を離れたところでも新選組のファンである読者には、たまらないパートだろう。
しかも、著者の描く剣士たちのカッコよさ!

絵柄はもちろん、そうとしか生きられない、こうとしか動けない男たちのせつない矜持の色気が江戸編には詰まっている。
新選組内にもあった、身分と立場の壁。
それが女性ということで差別され、社会進出を阻まれる明にも、やはり重なってくる。
それあってのコース料理だ。

現在の明治編に戻って、そこで一と明は英語の通訳を目指す岸田琴と出会うことになるが、琴もまた新時代を生きようとする少女。
彼女の努力と覚悟に明が感心する一方、琴は明の地道さと懸命さに感嘆することになる。
落ちこむ琴に、一がいい聞かせる言葉。そこはぜひ作品で触れてほしい。
江戸編を踏まえると、なおさら沁みてくる。
新キャラクターも登場して、さらに注目の本作。
コース料理はまだ半ばにして、すでにして珠玉の味わいだ。



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。

単行本情報

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