『ペコロスの母に会いに行く』
岡野雄一 西日本新聞社 \1200+税
車椅子の母が、慌てたように「とうとう見えんごとなってしもうた」とつぶやく。緑内障の悪化を心配する息子。息子の頭を見やって「髪の毛の見えんごとなってしもうた」と言うにいたる。しかし、とうの息子は「髪の毛はな・か・と!!」。そう、息子はペコロス(=小さな玉ねぎ)のような、つるんとした禿げ頭。「タダのハゲ茶瓶やったか」と母は安心したように、呆れたようにつぶやいて……。
9月21日には、世界アルツハイマーデー。国際アルツハイマー病協会が、アルツハイマー患者や家族への支援を進めるべく、採択した日だ。そんな日に読むのにふさわしいのが、映画化もされた岡野雄一『ペコロスの母に会いに行く』。
40代で故郷・長崎に戻った62歳のマンガ家“ペコロス”ことゆういちが、認知症と診断されてグループホームの施設に入居した89歳の母との毎日、思い出、その人生をつづったコミックエッセイだ。
もともと本作は自費制作本として製作されたもので、同書は長崎市の書店で2カ月間売り上げ1位を記録。物悲しいのにどこかコミカルで、コミカルななかに老いと介護のリアルがあって、多くの人の笑いと涙を誘った名作だ。2013年の第42回日本漫画家協会賞優秀賞も受賞している。
アルツハイマー病や介護というテーマも刺さってくるが、それ以上に残るのはあたたかなせつなさだ。自分にとっての母親、自分自身についても見つめ直す好機になる一作だ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。