日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『シュトヘル』
『シュトヘル』 第14巻
伊藤悠 小学館 ¥630+税
(2017年5月12日発売)
舞台は13世紀。
モンゴル軍の進行により滅亡間近となった、西夏の“文字”を守らんとする主人公・ユルール。そして彼と行動をともにし、彼を生かすために戦う女戦士・シュトヘル。
敵対するのは、“文字”を滅ぼし西夏文化を根絶やしにしようとする、モンゴルの指導者・大ハン。
そこにさらにユルールの異母兄・ハラバルや、大ハンの末息子・トルイなど、人々の想いと思惑が渦巻く。
そんな“文字”存亡をかけた戦いを描いたヒストリカル・ロマン『シュトヘル』も、本巻をもってついに終幕である。
はたして、ユルールは“文字”を守りきれるのか?
シュトヘルの生死の行方は?
さらには、シュトヘルの肉体に精神が憑依した現代日本の高校生・スドーは無事現代に戻れるのか……?
そもそも西夏文字とは、13世紀まで中国西北部に存在した西夏王国において、建国事業の一環としてつくり出された文字で、実際に使われていたもの。
16世紀以降は使う人もいなくなり、現在でも8割ほどしか解明されていない、いわば「忘れ去られた文字」である。
本作は、“文字”がいかに人々の想いを伝え、思想を伝播させ、文化をつくっていくかという、壮大なテーマにアプローチしている(これは“国”やそこに住まう“人”といった伊藤の前作『皇国の守護者』にも通底しているものだ)。
また、“文字”という題材を選んでいるだけあり、本作の登場キャラクターたちのセリフは全編をとおして心に響く名言ばかり。
特に本巻では、涙なしでは読めないほどの名言・金言も大きな見どころ。
本格的に梅雨入りし、外に出るのが億劫になりがちな昨今。
全14巻とちょうどいいボリューム感の本作で、壮大な歴史ロマンに身を浸してみるというのはいかがだろうか。
<文・西一太>
会社勤めの編集/ライター。マンガや映画は、ジャンルや新旧問わず、風の向くまま気の向くままに消費する雑食系です。今回初めて書かせていただきました。