日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『恋のツキ』
『恋のツキ』 第3巻
新田章 講談社 ¥570+税
(2017年5月23日発売)
三十路のフリーター女子が現実とメルヘンの狭間で激しく揺れ動く、切実すぎるラブストーリーの最新巻。
31歳のワコは彼氏のふうくんと同棲して3年目。もはや彼は空気のような存在となっていた。
いっしょにいるとラクチンだが、セックスもおざなりでトキメキは皆無。
心の奥ではとびきり好きな人と「愛し愛されて生きるのさ~」なメルヘンに憧れを抱いているが、現実は甘くない。
ラブラブではなくても、目の前にいる人との未来を考えなくてはいけない年齢なのだ。
そんなある日、バイト先の映画館にやってきた好みのルックスの男子高生のイコくんに、うっかり粉をかけちゃったのだから、さぁたいへん。
まだ15歳の高校1年生、ピッカピカの童貞であるイコくんは、すっかり(ちょいエロな)大人の女性にメロメロに。
ワコはワコで新鮮なイチャイチャに舞いあがり、「彼氏よりイコくんといる時のほうが自分らしくいられる」なんて気持ちの暴走を止められず。
てなわけで、めでたく16歳差の恋愛がスタート、並行して歪な三角関係の完成です。
さて、背徳の年の差ラブはひとまず置いといて、この第3巻は倦怠期を迎えた同棲カップルのピリピリくるような精神戦がじっくりと描写される。
結婚観、仕事観の違いから始まり、汚らしいキッチン、脱ぎ散らかされた靴下、チャンネル権の独占といった具体例が露呈する。
しかし、本来なら2人で本音をぶつけあい、すっきりできる絶好のチャンスなのに、ワコには“イコくん”という逃げ場が用意されているのだ。
なるほど、事件性の高いファンタジーはあくまでスパイスにすぎず、新田章が本当に描きたかったのはこれなのか! ページを繰りながら思わず叫んでしまった。
目、口、うなじ、手、背中と体のパーツすべてに表情があり、小道具の使い方、構図の取り方も映画的に物語る。
ともすればダラダラと長くなりそうなセリフは極限までそぎ落とされ、読む者の胸に刺さる。
驚いた。すばらしい。脱帽です。
はたして明日をも知れないワコが、どこに不時着するのか——。次巻、括目。
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。