自分の欲望と快楽に素直すぎて、いろんな人とエッチしちゃう女子高生・小谷さん。彼女を独占したいピュアボーイ、山下くん。そんな高校生男女の関係を通して「好きとセックス」の曖昧で残酷な関係をあぶりだす問題作『あそびあい』。
誰に共感するかでアナタの性愛/価値観がわかる!? 前代未聞の踏み絵マンガとして、連載が開始するやいなや、「小谷けしからん!」「山下は俺(私)だ!」と赤裸々な論争を巻き起こし、本誌「このマンガがすごい! 2015」のオトコ編でも19位にランクインした本作。ついに迎えた完結を記念して、新田章先生に話を伺いました。
意外な作品の成り立ち、山下と小谷、そしてあの名シーンの誕生秘話が明らかに……!?
エッチな女子高生が出てくる―― 連載スタート前、決まっていたのはそれだけ
――『あそびあい』は新田先生にとって初の連載作品だったわけですが、そもそもどのように始まったんでしょう?
新田 もともとバイトをしながら「コミック・ビーム」(エンターブレイン)[注1]で読み切りを小出しに描いてて、でも連載をなかなか持てなくて。むむ、これは漫画家で食べていくのはムリかも……と思っていた時に、大橋くん(漫画家の大橋裕之[注2])のイベントで、今の担当編集者さんと出会って。「うち今、新人募集してるからどうですか」って言われて、「どんなの描けばいいですかねえ」と聞いたら、「エッチな女子高生なんかどうですか?」と言われまして。
――なぜ、またエッチな女子高生を?
担当 「ビーム」の短編を見せていただいた時に、エッチな女の子が出てくる話があって、そのキャラクターがちょっと小谷さんに似てて、すごくよかったんです。で、そういうのが得意な方かなと。
――おお、ではストーリーでもテーマでもなく、エッチな女子高生ありきで!?
新田 そうなんです。で、0話と1話のネームを描いてみて、よかったら連載にしてあげるよということで、先も見えず描いていったら、当時の編集長が山下を気に入ってくれて。「山下は俺だ!」って(笑)。編集長は山下にかなり肩入れしてて「山下はこんなヤツじゃない!」とか言い出して、ネームの段階でもめることもありました。「お前ら(新田先生と担当編集者)は女だから、男の気持ちがわかってねえ!」みたいな(笑)。
――そんなところにも山下が(笑)。でも『あそびあい』って、読む人はみんなそんな感じで登場人物の誰かに感情移入しながら読んでる気がします。作品として云々だけでなく、自分の恋愛体験を重ねて語らずにいられない作品だなと。
新田 人にエラそうなことを語れるような恋愛はしてないんですけどね……。
――いやいや、でも「正しい恋愛」なんてないですからね。
新田 そうですよね! もともと恋愛のことは恥ずかしいし、まわりからもあれこれ邪推されるので描きたくなかったんですけど、やっぱり作品って自分が出ますよね。うかつに描いたら連載になってしまって……。
――いや、描いてもらってよかったです(笑)。しかし「恋愛とセックスはイコールか否か?」みたいなテーマが全面に出てるので、わりとテーマを決め込んでスタートした作品かと思ってました。
新田 全然です。話の続きも2人がくっついたり離れたりかなぁ……ぐらいで、ちゃんと考えてなくて。毎回1話終わるごとにまたゼロから考えるみたいな感じでしたね。ただ自分のなかで、よく女性同士が「男ってなんで浮気するんだろうねー」みたいに話してる状況を「えーっ!?」と思うことが多くて。いや、女でもするヤツはするし、男でもしないヤツはしないし。女の人がいろんな人とセックスすると、遊ばれてるみたいに言われることが多い気がして。だから、どっちもどっちなのになぁ、みたいなことを描きたかったのかもしれません。
――なるほど、スゴクわかります。でも、小谷さんがもし男の子だったら、ここまで「問題作」になってなかった気もしたり。
新田 そうそう、男だからこうとか女だからこうとかじゃなく、人それぞれでしょうって。ただ、好感が持てないっていう理由で、すぐ連載終わっちゃうかも……とは思ってました。編集部にも「こんなふしだらなマンガ、すぐにやめさせろ」みたいな内容の、読者からのお怒りのお便りがきてたりしたらしいし、Amazonのレビューでも「衝動的に燃やした」とか書かれてて。だから最後まで描けてよかったです。
抱くのは嫌悪感か恋心か性欲か 普通じゃないヒロイン、小谷さん
――ひー。そこまでの嫌悪を引き出す作品って、逆にスゴイですよ。でも、小谷さんのキャラって絶妙ですよね。人を傷つけてなにも感じないとことか人としてダメだろとも思うんですけど、よくも悪くも天然というか他意がないし、なんか憎めない。小谷さんはセックスにしてもモノにしても「もったいない精神の人」として描かれてますが、そういう設定はどこから?
新田 えーっと、貧乏くさいところは私ですね。小谷に関しては、単純に快楽主義者として描いたんですけど、普通のイマドキのおしゃれをしてる子ではないようにしたくて。服なんか買ったりしない、あるものを着てるような人だから、男に関してもたまたま機会があったからという感じで。自分からガンガン行くわけではないし、誰でもいいわけではないと思うんですよ。
――なるほど、よく考えたら「付き合う」って概念も変なもんで。彼女には彼女なりのルールがちゃんとあって、ただそれが他の人の「普通」とはちょっと違うという?
新田 普通は、好きな人が嫌がることは、その人と一緒にいるためにもしないですよね。小谷は、「あるものでいい」っていう感覚で生きてきたので、自ら本気で何か、誰かに執着して手に入れるということがなかった。っていう要素が大きいです。失う怖さも知らないでしょうし。山下とは、別に嫌いじゃないし、みおのこともあるから、「付き合うごっこ」してみよう! と。小谷なりに楽しんで山下に気を使ったりしたと思います。そういえば、1巻の帯に「いろんな人とHするのが悪いだなんて、誰が決めたんだろ?」とありますが、そのとおりで、お互いそれでよしとしているカップルなら、その形でうまくいくんですよね。
――小谷的か山下的か、同じ人でも相手とか状況によって変わったりもしますよね。新田先生ご自身のなかにも、どちらの要素もある感じですか?
新田 そうですね。小谷と山下だけでなく、すべてのキャラクターが自分の分身というか、なんらかの部分は入ってます。山下は最初はモデルがいたんですが、だんだん卑怯な、自分のイヤなところがガンガン入っていって。椿ちゃん(2巻から登場する純情系女子高生)にもジメッとしたところを背負ってもらいました。あと山下の親友の宮田もかなり私が入ってて、宮田に言いたいことを言わしちまえっていうのがあって、ついセリフが長くなってしまう。
――宮田の「大体、童貞の俺からしたら贅沢すぎる悩みなんだよ!」とか、たしかに!って(笑)。『あそびあい』は、そういうなにげないシーンやセリフもリアルで。山下が小谷さんと付き合うことになって「世界が輝いてみえる」って浮かれるシーンとか、冒頭で小谷さんが「あたし山下のは後ろからが好きなの」って言って、山下が怒るシーンとか、あるある!って。
新田 ありますよね……(笑)。だから、ストーリーはフィクションですが、こういうこと言ったな、言われたな……みたいなのは、いろんなシーンに織り交ぜてますね。小谷の親友のみおがアイコラするシーンは妄想ですけど、まぬけで大好きです。小谷と山下がセックスしてるところを見ればあきらめがつく……と、ピュアなみおなりに考えた結果です。
- 注1 コミック・ビーム エンターブレイン発行の月刊マンガ誌。1995年創刊。前身は『アスキーコミック』と『ファミコミ』。連載作品に『テルマエ・ロマエ』(ヤマザキマリ)『イムリ』(三宅乱丈)『砂ぼうず』(うすね正俊)など。
- 注2 大橋裕之 愛知県出身の漫画家。webマガジン「トーチ」で『太郎は水になりたい』を連載中。代表作に『シティライツ』『エアーズロック』など。4コママンガや1ページマンガも多く手がける。とにかくキャラクターの目が特徴的。