日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ルパン・エチュード』
『ルパン・エチュード』 第1巻
岩崎陽子 秋田書店 ¥429+税
(2017年6月16日発売)
『王都妖奇譚』などを生み出した岩崎陽子の最新作は、怪盗アルセーヌ・ルパンを主人公としたものである。
ルパンが主人公となる作品には、森田崇『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ』、さいとうちほ『VSルパン』(小学館)などがあるが、そうしたラインアップに、今回新たな顔ぶれが加わったわけだ。
19世紀末のフランス――「女神のサーカス団」(シルク ドゥ ラ デェス)をひとりの青年が訪れる。
ラウール・ダンドレジーと名乗った青年はサーカス団の下働きとなるのだが、同僚のエリク・ヴァトーは、ラウールがときどき別人のような鋭さを見せることに気づく。
ラウールは、人の悪意に過敏に反応し、意識を遮断してしまう。
その際に現れる人格は、ラウールとは正反対で「悪意」と渡りあえるだけの力を持っていた。
その人物は、自らを「ルパン」と名乗るのであった。
『ルパン・エチュード』は、アルセーヌ・ルパンとは、好青年・ラウールのもうひとつの人格であった――という設定による、異色のルパン物語なのである。
ときには、原作小説をなぞりながら、あるいは完全に岩崎オリジナルのストーリーが展開されていく。
本作は、基本的には、ルパン物の原作小説を読んでいなくても充分に楽しめる。
しかし、原作を読んでいれば、楽しさは倍加するであろう。
次巻は、ルパン物の『カリオストロ伯爵夫人』がもとになっているようなので、ぜひとも原作小説を読んで予習をしておこう。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2017本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。