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『淡島百景』 第2巻 志村貴子 【日刊マンガガイド】

2017/08/27


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『淡島百景』


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『淡島百景』 第2巻
志村貴子 太田出版 ¥680+税
(2017年7月25日発売)


淡島(あわしま)とは静岡県沼津市にある島のこと…ではない。本作でいう「淡島」は、淡島(あわじま)歌劇学校という架空の教育機関の名前。本作は、全国から集ったミュージカル女優志望の少女たちが住まう、この淡島歌劇学校の合宿所、通称「寄宿舎」の様子を描く。

第1話「田畑若菜と竹原王子」、第4話「伊吹桂子と田畑若菜」、第10話「田畑若菜と田畑佐江子」のように、田畑若菜が全体をとおしてみた時にはいちおうメインの登場人物といえなくもないのだけれど、少なくともまだ彼女の存在感はそれほど大きくはない。

第2話「竹原絹枝と上田良子」、第6話「四方木田かよと山県沙織」のように、ほかの少年少女たちも各話でフィーチャリングされていて、読み進めるにしたがって、「寄宿舎」がだんだんと息づき、ワイワイという彼女たちの声が聞こえてくるような気持ちになるのが楽しい。

第1話でタイトルの「竹原王子」とは、若菜のクラスメートで寮長の絹枝がかつて演じたロミオ役からついたニックネーム。
第2話はそんな絹枝が淡島歌劇学校に入学する前のエピソード。
第3話は、その絹枝が淡島を目指すことをあと押しした「叔母さん」こと悦子のエピソード。
悦子はかつて憧れた絵美が淡島に入学したあとで退学したことを知る。絵美の死後、その夫から淡島時代に絵美と面識があったらしい幸恵という人物からの手紙を見せられる。憧れと夢が集約し、焦燥と恋が錯綜する歌劇学校の歴史がうかがえる、この第3話のタイトルは「岡部絵美と小野田幸恵」。

そしてこの絵美を淡島で目の敵にしていたのが第4話のタイトルに名前が出てくる伊吹桂子。桂子は若菜と絹枝の世代が入学する頃には淡島で教師をしており、その雰囲気から「教官」と呼ばれるようになっている。3代にわたって淡島に通う桂子は、かつて絵美を追い出したことへの複雑な思いを抱えていた。絵美や絹枝のような凛とした存在ではない若菜からは「かわいい」とすら呼ばれる、「教官」桂子の姿は重層的だ。

ファン待望の第2巻の表紙は若き日の桂子だ。この第2巻には、大スターの母「日柳夏子」とその娘「山路ルリ子」をタイトルにした3連作が掲載されている。じつはこの「ルリ子」というのは桂子の母親である。ルリ子の母親の夏子は桂子の祖母でもある。第1巻で桂子に憎まれて死んでいった美しい祖母は、姑に疎まれ、早くに夫と死別するという悲しい過去を持っていた。

そして第10話は、若菜と母の佐江子の物語。桂子の家庭とは異なり、田畑家は朗らかそのもの。第2巻に収録されているもうひとつの3連作「淡島怪談」は、絹枝がロミオを演じる淡島の文化祭を軸に、OGたちの思いが交錯する。不定期連載の作品のため、単行本の刊行ペースが予測しづらいのだが、はやくも次巻が待ち遠しい。若菜と絹枝はこれからどんな活躍をするんだろう!



<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
Twitter:@nnnnnnnnnnn
Twitter:@n11books

単行本情報

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