日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『夢で見たあの子のために』
『夢で見たあの子のために』 第1巻
三部けい KADOKAWA ¥580+税
(2017年12月4日発売)
実写映画化、TVアニメ化もされたヒット作『僕だけがいない街』を産みだした著者の最新作『夢で見たあの子のために』は、肉親を惨殺された少年が、犯人を見つけだし、復讐を果たそうとするサスペンスものである。
13年前、千葉県市原市で殺人事件が発生。
主人公の中條千里(せんり)は当時5歳。父母が殺害された現場で泣きじゃくっていた。
そして、千里の双子の兄・一登(かずと)は、犯人に連れ去られて消息不明となった。
千里と一登は仲がよく、服やおもちゃなどを共有していた。
それらはふつうの双子でもあることだが、千里と一登は痛みや視覚も共有していた。
一方が身体に強い痛みを感じると、もう一方にも痛みが生じる。そして、痛みの当事者ではない側にも、その時何が起きたのかが、頭のなかで映像が再生されるのだ。
こうした特殊能力は、前作の『僕だけがいない街』にも登場したが、本作でも、双子の間の感覚共有という能力が重要な役割を果たす。
一登が拉致される様子が脳裏に浮かんで、千里は、犯人には左腕に漢字の「火」のような傷痕がある、という手がかりをえたわけである。
千里は、一登の視覚を共有した5歳の時から、犯人の男を捜し求めてきた。
そして、高校生になった千里は、テレビで左腕に「火」の傷痕の男を見かけ、その行方を追うことになるのだが……。
復讐に向けて突っ走る千里。それを諌めるのが、幼なじみの琴川恵南(えなん)だ。
恵南には、父親が殺人犯として逮捕され、母親はそれを苦に自殺した、という過去がある。
母親が遺した「罪を犯したら報いは必ずある」という言葉を胸に、恵南は暴走しがちな千里のブレーキ役となる。
『僕だけがいない街』では、主人公の藤沼悟は再上映(リバイバル)というタイムスリップできる力を用いて、過去を変えようとする。最初はひとりでやるがうまくいかず、友人たちの助けを借りて目的を成し遂げることができた。
千里も、ひとりで復讐の道を歩んでいるが、今後、恵南と絡んでいくことなどして、その心境も変わってくることだろう。
次巻の展開が気になるところである。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2018本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。