『ただしイケメンに限る』第1巻
いとうみきお 講談社 \429+税
(2014年10月3日発売)
かつて「週刊少年ジャンプ」で『ノルマンディーひみつ倶楽部』や『謎の村雨くん』を連載していたいとうみきおが、講談社に籍を移して久しぶりの新作……と思ったら、連載前に掲載予定誌「月刊少年ライバル」の休刊が告知されるという、思わぬ形で話題を提供することとなった本作。
まさに「船出前から沈没!?」みたいな状況で連載はスタートしたわけだが、その後、連載はWEBサイト「新雑誌研究所」で継続されることが決まり、作品そのものはさすがの安定感を発揮。魔界の住人であるヴァンパイア族の姫・イリシアが、イケメンの彼氏を求めて地上に舞い降り騒動を起こすという、少年マンガ的ラブコメをたっぷりと堪能できる。
しかし本作の主人公は、そのイリシアではない。タイトルからはほど遠い、まったくイケメンではないクロタクこと黒井琢が主人公。案の定イリシアには「黒豚」と呼ばれ、おまけに単行本1巻の表紙にも入れてもらえないほど不遇の扱いではあるが……。
そんな彼と「私は男を顔で選ぶ女」を宣言するイリシアがうまくかみ合うはずもないのだが、誰に何を言われようと心折れずに「立ち振舞だけはイケメン」を続けるクロタクに、ちょっとずつ心を許していくイリシア……と、まさしくこれぞ王道の展開。そこがいい。
過去作では、あまり崩したルックスのキャラクターを描かなかったいとうが、思い切っていわゆる「ブサメン」を主人公にすえているわけだが、その効果は絶大。そのルックスゆえか、共感度は非常に高い。
実際に作中でも男友達には絶対的に信頼を置かれているのだが、男なら誰でも(※ただしイケメン以外に限る)そんな彼を応援したくなることだろう。
そして、よけいなお世話かもしれないが、トラブル続きのスタートにもめげず、ポジティブ思考100パーセントのラブコメを描き続ける作者本人の姿にもうっすら重なって、エールを送らずにはいられない。がんばれクロタク、がんばれいとうみきお!
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。