『女子小学生はじめましたP！』第1巻
牛乳のみお 白泉社 \600+税
（2014年11月28日発売）

30歳サラリーマン、童貞。ある日、目が覚めたら、女子小学生になっていた。
朝起きたら毒虫になっていたという、カフカの『変身』の真逆をいく作品。いわゆるTS（トランスセクシュアル＝性転換）マンガだ。

変身した姿は、主人公いわく「まさにオレの理想とする美少女」。
遊びに来た女子小学生の友だちの情報によると、自分の名前は「るる」。人なつっこい「りり」、おとなしい「のの」の3人で仲良くしている……らしい。2人とも、美少女。
3人最初のイベントは、初ブラジャーの購入。ののの胸を触ったり、りりとパンツ交換をしたり。ラッキースケベにしては度が過ぎている展開の連続だ。

性転換マンガとして変わっているのは、彼が女子小学生の姿から戻りたがっていない、ということだろう。
途中、もとの身体に戻りかけてしまうシーンがある。日曜朝の番組に出てくるような妖精・コロコは、女子小学生の姿を保つためには「人が夢を抱くときにうまれる『夢力』で奇跡を起こさなければならない」という。しかも夢力の源は、ほかの美少女のパンツから得なくてはいけないのだ。
この話を聞いた主人公は「ああ、オレもおっさんには戻りたくないからな」とあっさり答え、パンツを入手しにいこうとする。
美少女人生（ライフ）を続けるため、「もとに戻ろう」という気持ちはみじんもない。

明らかにおかしいことを、ハイテンションに描くのが笑える、ちょいエロコメディ。しかしその裏には、ルサンチマンあふれる逃避願望が渦巻いている。
「美少女」という概念に、ほかのものはいっさい勝てない世界。戻らなくてもいいと思ってしまいかねない世界。
いびつさを甘い絵柄でコーティングした、かわいくてちょっと怖い作品だ。

＜文・たまごまご＞
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」