『ボッコンリンリ』
岩下慶子 講談社 429+税
今年も12日の本日、京都・清水寺で発表される、“今年の漢字”。これは、12月12日が“12(いいじ)・12(いちじ)=いい字・いち字”にちなんで日本漢字検定協会が制定した「漢字の日」であることから行われているもの。
制定の1995年以来、全国から募集したその年の世相を象徴する漢字一字が毎年発表されており、ちなみに昨年2013年の一字は“輪”だった。
今年は何が選ばれるのか要注目だが、今回紹介する作品を漢字一字で表すとすれば、“恋”だろう。
そのマンガは、『花を召しませ』で知られる岩下慶子の『ボッコンリンリ』。ドSなイケメンと地味な女子高生のラブコメディだが、本作が扱っているのは漢字の美を表現する「書道」だ。
現役高校生ながら、天才書道家として名高い内田道元。彼が所属する高校書道部は、道元目当ての女子たちが集まる、ファンクラブと化していた。
山田凜も道元に憧れて書道部に入部したひとり。ただ、彼女がなにより惹かれているのは道元の書で、母親の影響で書道を始めた彼女は、真剣に書と向き合っている。そんな凜に道元は興味を持ち、また凜も次第に道元自身に惹かれ始めていって……。
高校書道部を扱ったマンガでは、河合克敏『とめはねっ!鈴里高校書道部』があるし、書道家が主人公のマンガでは、ヨシノサツキ『ばらかもん』もあるが、その2作に負けず劣らず、書のあり方、その向き合い方、そして魅力がきちんと描かれている本作(もちろん、可憐なラブストーリーも展開される)。
書には、想いも乗るもの。書に対する情熱、恋する気持ちが、そこで重なっていく。アートでもある書道だが、男子はカッコよく、女子はかわいい、作者の絵柄の美麗さも見どころだ。
タイトルの“ボッコンリンリ”は、漢字で書くと“墨痕淋漓”。筆で書いた墨の痕跡が、生き生きと盛んでみずみずしい様子を表した熟語である。
本作はまさにそんな一作で、恋愛や書道の楽しさはもちろん、書かれた漢字が持つ力にもあらためて気づかされるはずだ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。