『深夜0時にこんばんは』
冬川智子 太田出版 \743+税
今日はクリスマス・イヴだが、ラジオにまつわる日でもあることはご存知だろうか?
1906年の12月24日、世界初の無線通信のラジオ放送が行われているほか、日本では1957年のこの日、 FM放送の実験局として、NHK超短波FM放送東京実験局が開局。日本初のFM放送が開始された。
また、日本初の民放FM放送局であるエフエム愛知 (FM AICHI) が開局したのも、この日。12月24日には、ラジオ放送の歴史が詰まっている。
マンガと同じく、身近で気安いメディアでもあるラジオ。そんなラジオを主題にしたオムニバス連作が、『マスタード・チョコレート』で注目を集めた冬川智子の『深夜0時にこんばんは』。
タイトルどおり、深夜0時に始まるラジオ番組『御手洗真のミネラル・ラジオ』を通して、その向こう側にいるさまざまな人たちの日常と想いが描かれている。
当サイトでは、7月12日の「ラジオ本放送開始の日」にも取り上げたが、ラジオに縁のある12月24日、今一度その内容を振り返ってみよう。
同番組が時計がわりのイラストレーター・カホ。熱心なリスナーの中学生・アキラ。たまたま番組を聴いた主婦の由美。
カホは同業者の男性に一度告白してフラれながら、それでも彼を想い続けていて、アキラは放送作家を夢見てハガキを送り続けながら、クラスメイトの女の子に好意を寄せてもいる。
そして夫も子どももつれなく、家庭生活にさみしさを感じていた由美は、番組DJの御手洗が大学時代につきあっていた御手洗だと気づいて……。
DJのおしゃべりに笑わされたり、刺激を受けたり、励まされたり。それで生活も自分自身も大きくなにか変わるわけではないけれど、常に寄り添うようにラジオは生活のなかにある。
『深夜0時にこんばんは』自体もまた、ラジオのようなぬくもりのある作品だ。
イヴの夜を、ひとりで静かに過ごすという人も多いかもしれない。
そんな人は、ぜひラジオをバックミュージックに、『深夜0時にこんばんは』を読んでみては? 温かく滲みるイヴの夜になるはずだ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。