『おおきく振りかぶって』第9巻
ひぐちアサ 講談社 \533+税
1610年の1月7日、イタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイが木星の衛星「ガニメデ」「エウロパ」「イオ」を発見した。
その観察記録は同年3月に『星界の報告』という書籍で発表され、この頃からガリレオは、当時のキリスト教的な宗教観からは異端とみなされていた「地動説」を支持し始める。
ひぐちアサによる大人気の青春野球マンガ『おおきく振りかぶって』がアニメ化した際、第2期のオープニングテーマ「夏空」を担当したのが、北海道出身の3人組ロックバンド「Galileo Galilei」だ。
その特徴的なバンド名は、まさに世界史の授業中にメモしたガリレオ・ガリレイの名前から取ったのだという。
中学時代、祖父の七光りでエース投手を務めていた三橋廉は、ひいき呼ばわりされるあまりにネガティブな性格になっていた。彼は隣県の西浦高校へ進学したが、百枝まりあ監督(=モモカン)率いる発足したての野球部で、またもやエースを任されてしまう。
ネガティブな三橋が、彼の素質を見抜いた捕手・阿部隆也の正確なリードや、他校との試合を通じて、エースとしての自覚と自信をつちかっていく様は、従来の野球マンガ以上にアツく、読む者は弱気な三橋にイラつきながらも、知らず知らずのうちに共感していく。
Galileo Galileiの「夏空」が主題歌として流れたアニメ第2期「夏の大会編」は、マンガでは第9巻以降、夏の県大会三回戦の対崎玉高校戦から五回戦の美丞大狭山高校戦までが描かれる。
「夏空」は、夢より人生を選んだ“大人”が、不安や不満に満ちながらも希望を捨てなかった青春時代=夏の日をふり返り、諦めない、迷わない強さをもう一度手にする様子を歌った曲だ。大人にとっては胸がチクリと痛み、同世代については心に強く響く傑作エールソングである。
「それでも地球は動く」――1633年に開かれたローマ教皇庁による裁判で有罪を告げられたガリレオは、地動説を放棄する「異端誓絶文」を読み上げた後、そうつぶやいたという説がある。
ヒイキのエースと陰口をたたかれてもマウンドを降りなかった三橋が、阿部と出会い、本当の野球の楽しさに目覚め、自らの意思で投げる姿に、決してあきらめなかったガリレオの姿が、どこかしらオーバーラップして見えてくる。
<文・富士見大>
編集プロダクション・コンテンツボックスの座付きライター。『衝撃ゴウライガン!!兆全集』(廣済堂出版)、『THE NEXT GENERATION パトレイバー』劇場用パンフレット、平成25年度「日本特撮に関する調査報告」ほかに参加する。