『orange』第4巻
高野苺 双葉社 \620+税
(2015年2月20日発売)
10年後の自分から、高校2年の今の自分に向けて手紙が届けられる──。
そんなファンタジックな設定で幕を開ける、高野苺『orange』。
手紙が書きしるしているのは、主人公・菜穂がこれから取るべき行動で、それは転校生で仲間となった翔(かける)の未来を変えるためのもの。17歳の冬、翔は自ら命を絶ってしまっていたのだ。
未来の自分は、その自殺を止められなかったことを後悔している。そして、翔に惹かれている今の菜穂は、翔と距離感を縮めつつ、手紙に書かれたことを実行していくが……。
「未来」ということで言えば、連載当初から読んでいる読者は、本作がこんな展開になっていくとはまるで予想していなかったんじゃないだろうか。
「別冊マーガレット」に掲載され、休載をはさんで「月刊アクション」に連載中の本作。その再開後のストーリーでは、意外な事実が明らかになっている。じつは菜穂以外の3人の仲間にも、それぞれ10年後の自分たちから手紙が届けられていて、翔の自殺を止めるべく行動していたのだ。
さらに強まったSFテイスト、翔のために行動する仲間たちの友情、そして結果として自殺を選ぶことになる翔の内面のドラマ。『orange』は当初あった少女マンガの枠を、すでにいい意味で逸脱している。
休載と移籍で足されたものもあるのかもしれない。月刊青年誌に発表の場を移したのは、変えられて収まるべき未来だったんじゃないだろうか、とさえ思えてくる。
現在の友情の要素にも胸を熱くさせられるが、個人的に胸打たれるのは、登場人物たちのその後の姿だ。
現在進行形で高校2年の物語が進行する一方、おそらく過去に手紙を送るであろう10年後の菜穂たちの姿も挟まれて、そこに構成の妙がある。
菜穂は、仲間のひとりで、ずっと菜穂を想ってきた須和と結婚していて、母親にもなっている。そこで菜穂は須和を前に言う。
「翔が生きてても私は須和と結婚するよ」
菜穂がそう言えるのは、今はまだ翔が自殺したままの未来だからにすぎないのかもしれない。ただ、それは真理でもあるだろう。
本作は過去と未来を、少女マンガと青年マンガを、また現実とロマンを行き来する。
初恋は実らない、過去は変えられないというのが現実だとしても、ロマン――少女マンガのなかでは、それはかなうことこそ望ましいものでもある。
しかし『orange』はそんな甘やかさにとどまらず、酸味や渋味にも踏み込んでいる。はたして、最後はどこに行きつくのか。
少女マンガの情緒とドキドキと、ストリーマンガの情感とハラハラの両方が味わえる、最高峰のマンガだ。大人にこそ、ぜひ読んでほしい。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。