『青色セクスアリス』
宮本佳野 徳間書店 \640+税
(2015年2月25日発売)
全寮制の男子校、消えた生徒、それぞれが抱える秘密と想い。
そう書くと、往年の少女マンガファンは、萩尾望都の名作『トーマの心臓』を思い出すんじゃないだろうか。
宮本佳野『青色セクスアリス』は、地方都市の閉ざされた学園で、3年の寮生が謎の失踪をとげるところから幕を開ける。
それでも学園の生活は、退屈で平凡なもの。また、寮生たちは悩める年頃で、自分のことで手一杯でもある。
同じく寮生で2年生の陸は、進路の問題に加えて、セクシャリティの問題で悩む日々。女の子に興味を持ちながらも、男性教師の遠山に惹かれてしまっている。
「まあ つまり 色々とどっちつかずの 弱輩者というわけだ」
一方、寮のリーダーである3年生の岡嶋。調子がいいけれど、面倒見もよくて周囲の信頼は厚いが、夜ごと、同室で無口な優等生の大友に淫らな欲望をぶつけて、彼を翻弄している。
そして、岡嶋を避けながらも拒みきれない大友は、失踪した寮生で友人でもある麻田のことで、なにか秘密を抱えているようで……。
遠山を想いながらも、そんな大友のことが気になってくる陸。後輩として陸のことを案じながらも、彼のことが愛しくなってくる岡嶋。
複雑な岡嶋と大友、大友と陸、陸と岡嶋の関係。そんななかで、麻田が突然失踪した真の理由が、意外なところから明らかになる。
ミステリー要素もあるBLの本作だが、描かれているのはそれこそ「色々とどっちつかずの 弱輩者」たちの姿だ。まさにそれは青色の季節で、いえば青春期の想いこそミステリー。
笑って、揺らいで、ときめいて、悩んで、今という時間と今あるものに向き合っていく。その姿は、女性にも男性にも響くはずだ。
イマドキの男の子たちの話で、性が扱われてはいても、10代の心と人を想うことが真摯に描かれていて、清廉さや透明感もある一作。そこにも『トーマの心臓』と相通じるものがある。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。