新装版『かむろば村へ』上巻
いがらしみきお 小学館 \796+税
(2015年3月13日発売)
監督・松尾スズキ×主演・松田龍平で公開間近の映画『ジヌよさらば ~かむろば村へ~』。原作は2007年から2008年まで「ビッグコミック」に連載された、いがらしみきおの『かむろば村へ』である。
映画化にあわせてコミックスが上下巻の新装版で登場。上巻には松尾といがらしの対談も収録されている。
映画のタイトルにも使われている「ジヌ」とは、作中に登場する東北の方言で、「ゼニ(銭)」がなまったもの。
主人公のタケこと高見武晴は東京の小さな銀行に勤めていたが、お金のせいで不幸になる顧客を目の当たりにしすぎてしまい、お金アレルギーを発症。お金を使うどころか、触ることすらできなくなってしまう。
タケは仕事を辞め、過疎化が進む東北の農村・かむろば村へ引っ越し、1円も使わないで生きていく決意するのだが……。
ガスも電気もお金も使わずに自給自足で暮らす。そんなロハスライフに憧れる都会人も多いと思うが、厳しい環境の田舎で生活している地元の人にとっては、「なめんじゃねぇ」ってな話だ。
それでも異常な世話焼きの村長のおかげで、どうにか生活が成り立ち始めるタケ。神様を自称する“なかぬっさん”を筆頭に、一筋縄ではいかない村人との奇妙な日常が始まる。
タケは自然派志向の清廉潔白なキャラクターではない。お金アレルギーを発症したが「百姓をやれば、お金を使わなくても生きていける」と短絡的な思考で行動し、厳しい現実に叩きのめされる世間知らずな若者である。
かむろば村でボロボロになるタケ。それでも必死に日々を過ごし、やがて「なにも買わない なにも売らない ただ生きていく」ことを力強く表明する。その泥臭い姿に、お金に振りまわされている現代人なら誰しも心揺さぶられるはずだ。
先日、筆者が『ジヌよさらば~』の劇場用プログラムで、いがらしにインタビューをした際、『かむろば村へ』の連載終了直後にリーマンショックが起こったことについて聞くと、「時代の符合のようなものを感じた」という。
だが、当時あれだけ現代の貨幣システムに叩きのめされ、ジヌについて嫌というほど考えさせられた我々なのに、たった数年でケロリと忘れてアベノミクスワッショイなのが現状だ。
いがらし流リアルファンタジーの快作にして怪作を、今こそ強烈にオススメしたい。
<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。東京都立川市出身。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。
「ドキュメント毎日くん」