我が名はネロ 1
安彦良和 中央公論新社 ¥596
人生における分岐点が、奇しくもすべて6月9日に重なる歴史上の人物がいる。暴君として知られる、ローマ帝国の第5代皇帝ネロだ。
彼が妻オクタウィアと結婚したのが、紀元54年6月9日。その妻は62年6月9日に自殺している。 さらにネロ自身も、68年6月9日、国を追われた末に自死に至っている。
もっといえば、前述のネロの結婚記念日は、オクタウィアの元婚約者であるシラヌスが自殺をした日でもある。「6月9日」のなかで唯一の晴れの日も、じつは血塗られていたというわけだ。
16歳で皇帝の座に就いたネロは、いかにして惨殺を繰り返し、ローマを焼き尽くすまでの暴君となったのか。その生涯に迫ったマンガが、安彦良和『我が名はネロ』である。
歴史劇としても読み応え十分で、傲慢にして孤独だった男の悲劇としても胸に迫る。
強大な力を手にしたことで、破滅へ向かって突き進んでしまったネロ。作者はアニメ『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイナーとしても知られるが、『ガンダム』の主人公アムロと本作のネロは、同じ「強大な力を得た若者」として、正反対の道を歩みつつも紙一重の場所にいた、表裏一体の存在に見えてきてしまう。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Summer」が6月5日に発売に。『一週間フレンズ。』のDVD&Blu-rayブックレットも手掛けています。