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『ラヴァーズ・キス』新装版 吉田秋生 【日刊マンガガイド】

2015/06/04


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『ラヴァーズ・キス』新装版
吉田秋生 小学館 \741+税
(2015年5月8日発売)


  

鎌倉に住む里伽子は、早朝の海辺で“ろくでなし”と噂される校内の有名人・朋章と出会い、なかば投げやりに彼に近づき、一夜をともにする。
後悔するとわかっているのに募ってゆく想い。やがて互いに傷を抱えていることを知った2人は――。

『海街diary』の映画化で注目を集める、吉田秋生の1996年の名作が新装版で登場。
ひとつの物語をさまざまな人物の視点で語ってゆくオムニバス・ショートというスタイルで、2人の男女を軸に、彼らと関わる様々な人々の様々な思惑が描かれてゆく。

互いに惹かれあいながらも離れなくてはいけない2人。どんなに深く理解し合っていても成就することのない関係。ちょっとした行き違いですれ違った想い……。
切実なまでに相手を求め、思いやるがゆえに黙って見守ることしかできない彼らの想いは、「恋愛」なんて軽い言葉では、とうていおさまらない!

同性愛的な関係も多分に登場するが、そこに余分な意味性はなく、あくまで関係性のひとつとしてサラリと描かれているのが、ほかの同性愛モノとは一線を画する、吉田秋生ワールドの魅力。

アメリカン・ニューシネマの香りを漂わせる、ドライな語り口とリリカルな詩情。
「でもしかたがない、あのひとに出会ってしまった」「幸せかどうかなんて本人にしかわかんねーよ」といった台詞も、切なく胸を突く。各話ラストシーンの息をのむ美しさといったら……!

「少女マンガ」という枠を超えて、永遠に読み継がれるべきマスターピースな一冊。
『海街diary』とは執筆時期が10年近くも離れてはいるが、登場人物がリンクした「姉妹作」ゆえ、現在映画が公開直前の『海街diary』で吉田秋生にハマった人は、こちらも絶対必読!



<文・井口啓子 >
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて『おんな漫遊記』連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69

単行本情報

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