『ファントム無頼』第1巻
史村翔(作) 新谷かおる(画) 小学館 \359+税
1896年6月8日は、フランスの気象学者ド・ボールが成層圏を発見した日。
ド・ボールは、地上約10キロメートル前後までは高度が上がるにつれ気温が下がるのに、ある一定の高さを超えると気温が一定になることに気づいた。
気球を使った実験を繰り返したのち、大気には性質の違う「層」があると発表したのである。
地上から10キロくらいまでが対流圏。そのさらに上、地上約10~50キロが成層圏。
雲の上なのでいつも晴れている……といえば「あ、飛行機が飛んでるところは成層圏なんだ」とピンとくるのでは。
そこで紹介する『ファントム無頼』は、航空自衛隊に所属するパイロットたちの物語。
操縦桿を握る破天荒な性格の体力バカ・神田と、知性と冷静な判断力を誇るナビ担当・栗原のコンビが魅力的な、バディものの先駆的作品だ。
自衛官の彼らが操るのはファントムと呼ばれる戦闘機だが、舞台は平和な日本。災害や突発事故などの緊急事態に駆けつけ、人命救助に活躍するさまが1話完結で描かれる。
ときにはマッハの限界に挑み、えも言われぬはなれわざで魅せるのなんの!! 一瞬の判断力と技術が問われるシリアスなアクションシーンの臨場感と、神田・栗原の凸凹コンビのコミカルな会話劇、そのバランスが絶妙だ。
個性あふれる百里基地の上官たち、ゲスト女性キャラに惚れっぽい神田が鼻の下を伸ばすお約束の展開も吸引力バツグン。
人間ドラマとしても読ませながら、命がけで日本の空の平和を守る男のロマンが満喫できる名作である。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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