『波よ聞いてくれ』第1巻
沙村広明 講談社 \590+税
(2015年5月22日発売)
どこに行くねん、このマンガ。
……思わずツッコミが似非関西弁になってしまったが、作品の舞台は北海道である。
札幌のカレー屋で働く主人公・鼓田ミナレ(25)は、失恋&詐欺のダブルパンチでやけくそになり、小粋なバル(飲み屋)で飲んだくれていたところ、たまたまそこに居合わせたFMラジオ局のプロデューサーにあられもないトークを収録されてしまい、なんの因果かマッポの……じゃなくて、ラジオでのトークに引っ張りだされてしまうのだった。
かくして、しゃべくり芸ひとつで成りあがる、イカした女の波瀾万丈一代記がスタートする……と思いきや、カレー屋で引き続きバイトしたり、クビになったり、家を追い出されたり、弱ったところが狙い目だとばかりに同僚のアプローチを受けたり、かと思ったら恋愛の対抗馬としてミステリアスな美女があらわれてみたり、ラジバンダリ(古いよ)。
サクセスの予感、いっこうに訪れず。人生の岐路、いまだ定まらず。
しかし、そんななにがなんだかわからないような状態でも、『おひっこし 竹易てあし漫画全集』 『シスタージェネレーター』 『ハルシオン・ランチ』といった発表済みの傑作群を彷彿とさせる、サブマシンガンの弾丸がごとく叩きこまれるキレッキレのセリフ&小ネタの数々で、まー、ぐいぐいと読ませるのなんの。
天才はやはり天才だった。下手なことは考えず、極上の心地良い刺激にひたすら身を任せながら、先の展開を楽しみにしたい。
<文・後川永>
ライター。主な寄稿先に「月刊Newtype」(KADOKAWA)、「Febri」(一迅社)など。
Twitter:@atokawa_ei