人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、ユペチカ先生!
ある日、アメリカ留学をした日本人大学生・サトコは、現地でルームシェアをすることに。さっそく家に行ってみるとそこには、イスラム教徒の女子・ナダが! まったく違う国・環境・文化で育った2人の女子の生活は不安でいっぱい……と思いきや、ビックリするくらい2人でアメリカ生活をエンジョイ!?
ときには悩み、ときには思いっきりハメをはずす、そんな等身大の女の子たちの姿を描いたマンガ『サトコとナダ』。『このマンガがすごい!2018』ではオンナ編第3位にランクインした本作ですが、今回、この話題作を手がけたユペチカ先生にインタビューをさせていただきました。
本作が生まれたきっかけ、さらには『サトコとナダ』を支える“神様”の存在までもが明らかに……!?
イスラム教徒への間違った思いこみに気づいたことがきっかけに
――『サトコとナダ』はユペチカ先生の留学体験がもとになっているそうですが、この作品を描くに至ったきっかけを教えてください。
ユペチカ はい。ときどきコミックエッセイと誤解されることがあるのですが、本作はフィクションです。なので、サトコにはもちろん私の視点も反映されていますが、私そのものではないですし、ナダもいろんなイスラム教徒の女の子たちをもとにつくったキャラクターです。私が海外で、イスラム教徒の女の子たちに出会って、自分が持っていたイスラム教徒の方のイメージとまったく違うなと、徐々に気づいていったことがあって。そんな思いをマンガに描いてツイッターに投稿したのが始まりです。
――自分の気づいたことを聞いてもらいたい、みたいな感じで?
ユペチカ 「ちょっと聞いて!」みたいな軽い感じですね。フォロワーさんにいろんな国の文化に興味のある人が多かったので、プレゼンテーションみたいなことができたらと思って始めました。どこかで連載するとか本になるとかを目指したわけではなかったです。
――まず一番に描きたいと思ったのは?
ユペチカ お恥ずかしいんですけど当時、イスラム教について本当に無知で。彼女たちが着てる黒い衣装は「着させられてる」ものだとずっと思ってたんですね。抑圧の象徴と見られてるところがある。でも、彼女たちがいうには自分から着ているのだと。それにまずカルチャーショックを受けましたね。
――いや、私もそう思ってましたよ。『サトコとナダ』は、無知からくる誤解を解くテキストとしてもスタンダードになりつつあると思います。個人が実際に見聞きしたことを描かれているからこそ説得力があります。
ユペチカ 触れあったなかで知って、それから自分で調べたりもしています。アメリカにきているイスラム教徒の子たちは、母国の一般的な家庭の子たちよりもかなり開放的な家庭に育っているので、私が触れている人たちがすべてではないということは忘れないようにしているし、みなさんにも理解していただきたいところではあります。
――ナダはイスラム教徒女子のひとり、サトコも日本人女子の一例であると。
ユペチカ はい、そうです。どうしても異文化交流ものとなると、「アラブ人はこうだ」といっているように見えてしまいそうなので、決めつけにならないよう努力しています。
――自分を顧みると、「日本人はこうだ」とひとくくりで紹介されるのには大いに抵抗がありますしね。本作はアメリカが舞台なので、サトコもナダも異邦人同士であるところに新鮮さを感じます。
ユペチカ ありがとうございます。そこは意識してねらったわけではなかったのですが、今考えるとすごくいい構図になったと思っています。
――ナダのキャラクターを設定するうえでの意図は?
ユペチカ 実際に接するまで、イスラム教徒の女の子は物静かで控えめなイメージだったんですが、じつはそんなことはなかった。だから、ナダは元気でちょっと高飛車なところもあって、お茶目なキャラクターにしたいと思いました。そもそもイスラム教徒の女の子は、私たちと何も変わらなかったんです。やかましい子もいれば物静かな子もいる。これって、きっとどこの国でもいっしょのはずですよね。
――ホントにそうですよね。イスラム教徒女子たちとの女子会のエピソードからもそれが伝わってきます。
ユペチカ めっちゃ楽しかったし、それまでみんなの髪型とか見たことがなかったのでびっくりしました。シルバーに毛先を青くしてる子もいて……。すごい露出の多いレースクイーンみたいなワンピースの子、日本でいうゴスロリ系の子もいて。逆に考えるとニカブの下ならなんでも着られるんだなと!
――隠れている部分で楽しむという発想と、隠れているから下はパジャマでもノーメイクでもいいという発想の両方があって唸らされます(笑)。
ユペチカ 「ニカブの下はパジャマ」も実話です。大学のトイレでパジャマで歯を磨いてる子が、いそいそニカブを着て出ていったので唖然としました(笑)。このあたりは本当に「着させられてるもの」と思ってたなかに、そんな自由なや応用編があったなんてと驚かされたことです。