『BARBARITIES』第1巻
鈴木ツタ リブレ出版 \713+税
(2015年6月10日発売)
まず驚かされるのは、これが鈴木ツタの作品だということ。
『この世 異聞』で和風のファンタジーはあったものの、鈴木ツタといえば『あかないとびら』に代表される、日常を舞台にした等身大の男たちのドラマがほとんどだ。
しかし本作は、「昔々の遠い国 違う世界の物語」を扱った、欧風の王国ものを思わせる異国ロマンファンタジー。また新しい世界観を提供しながらも、いっぽうで作者らしい物語となっている。
ロライン国の宝であるモンタギュー司法卿。彼に届いた脅迫状への対応策として、アダム子爵が司法卿の警護を任されることになった。
見た目は麗しく、仕事ぶりは凛々しいアダム。しかしじつは、部下からは「見境ないないから」と言われる好色家で、本人も「私はこの土地に性的なお友達がわんさか欲しいのだ」断言するほど。
また実際に色男で、老若男女すべてを虜にしてしまうのだから、始末が悪い。
そんなアダムが、パーティーの席で出会うことになるのが、司法卿の甥であるジョエル。
ジョエルは叔父とは違い、くだけた人間なのかと思って近づくアダムだったが、ジョエルもまた立派な志を持った堅物の人間。それだけに反応も、きまじめでうぶだ。
思わずジョエルをからかってしまうアダムだったが、やがてそれは本気の恋となってしまって……。
この2人の恋模様に、ロライン国、他国の政治問題も絡みながら物語は展開されていく。
こうした設定ならではの王国のドラマも見どころだが、やはり魅力的なのは男性キャラクー。
アダムは作中人物にはもちろん、読者にも分かりやすくモテるキャラクターだ。
いっぽうのジョエル。中途半端な長さの縮れた毛に太い眉、ヒゲと、見た目においては非モテのキャラクターだろう。しかし、このジョエルがめっぽうかわいい! しかもその見た目どおり、女の子然としたかわいさではなく、きまじめで堅物の男らしいかわいらしさがあって、アダムが魅せられるのも納得だ。
いや、男性読者が読んでも、ジョエルには萌えるのでは? 男だけが持つ、男ならではのかわいらしさやカッコよさをきちんと描き、かつそれが、男が男に魅せられる理由にきちんとなっている。
本作は世界観やキャラクターの魅力とあわせて、そんな本質的なBL作品の魅力でも見せてくれる作品だ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。