『空より高く』第1巻
宮川匡代 集英社 ¥419+税
1931(昭和6)年の8月25日は、日本を代表する空の玄関、東京国際空港(羽田空港)が開港した日。
もちろん当初、空港は一般の人には縁遠い場所であったが、1960年代から次第に身近な場所となっていく。
地方空港が増えたことによって国内線が充実、1964(昭和39)年には観光目的の海外旅行が自由化される。
旅行のみならず出張などで頻繁に利用する人が多くなった今も、空港には人の気持ちをわきたたせる何かがあるように思う。
さて、本作の舞台は、東京都の離島にある空港だ。といってもヒロインはキャビンアテンダントでも利用者を迎えるグランドスタッフでもなく……21歳のグランドハンドリング(地上作業員)とはじつに珍しい。
通称“グラハン”の仕事は、航空機を誘導して駐機させる機体誘導、さらには貨物や手荷物の積み下ろし等々。
円谷窓花(つぶらや・まどか)がこの仕事を目指したのは、パイロットである父の影響だ。今は病床にある父に、いつか立派に機体誘導する姿を見てもらいたいと願いつつ、一人前のグラハンを目指す青春物語である。
しかし、グラハン部の先輩たちを筆頭に、整備士も地上作業を統括するステーションコントローラーも男ばかりなのに、窓花はなぜか恋に無縁。カッコよくて人格者で、だれにも尊敬される父をもった弊害なのか!?
内心ひそかに“いつか空港に降り立つ王子様”を待つ窓花の前に、ついに運命の人が現れる。
東京からやって来た篠宮紳吾(しのみや・しんご)と同僚として働くうちに、窓花はどんどん彼にひかれていく……。
のどかな島で育まれる恋と、責任ある仕事への情熱と。そして、裏方として空の安全を支える地上作業員たちがすべての乗客に注ぐ温かなまなざしが心に残る物語だ。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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