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『忘却のサチコ』第3巻 阿部潤 【日刊マンガガイド】

2015/09/27


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは『忘却のサチコ』

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『忘却のサチコ』第3巻
阿部潤 小学館 ¥552+税
(2015年8月28日発売)


結婚式の会場で、新郎の俊吾に逃げられた、アラサー女子の佐々木幸子。
超きまじめで、完璧に仕事をこなす委員長的存在の彼女も、さすがに心がズタズタ。何もできない、頭のなかは俊吾でいっぱい。おかしくなってしまう。
これではだめだ、どうすれば忘れられるのか……その時たまたま入った定食屋のサバの味噌煮があまりにもおいしかった。食べている時に何もかも忘れていた。

心の傷を癒やすには、忘れるには、おいしいものを食べるしかないのでは!?
幸子は忘れるために、おいしいものを食べることにこだわりはじめる。

第3巻では、問題の結婚式から半年たち、だいぶ幸子の心の傷は癒えてきたところ。
彼女は、次のステップに踏み出すためにはどうすればいいのか、考えだしている。
小学校時代の同級生に誘われてデートに行ったり、大の苦手な子どもの子守に挑んだり。

「人間は考える葦である」とパスカルは言った。また同時に、人間には「忘れる」機能が脳に備わっているからこそ、柔軟な葦になることもできる。
今までの幸子は、考えすぎることで自らを保とうとする、鉄壁な女子だった。だから、恋愛のトラブルで心が揺れた時、ボッキリ折れてしまった。
第3巻まできて、本当にゆっくりではあるけれど、静かにその傷を忘れつつある。忘れることは、後ろを振り向かない、前にある楽しさに気づくことだ。

「美味しいもの」はまさに、目の前に広がる無限の楽しみだ。

3巻の見どころは、貴重な特急「北斗星」内での食事や、広島での新鮮なカキ料理から、揚げパンや牛乳のような身近なものまで、幅広く彼女がおいしさを発見していくことだ。
高い、珍しいばかりが、おいしさではない。目の前のもののおいしさを再発見できているのは、少しづつ「忘却」して、視野を広げているからだ。



<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」

単行本情報

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