日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『プリマックス』
『プリマックス』第1巻
柴田ヨクサル(作) 蒼木雅彦(画) 集英社 ¥514+税
(2015年9月18日発売)
異色の“将棋バトル”マンガ『ハチワンダイバー』を完結させた柴田ヨクサルがヤングジャンプ本誌に再来した。
柴田氏は初の原作者となり、これまた異色な仏像×日常コメディ『仏像のまち』の蒼木雅彦を作画に迎えた新作は、題して『プリマックス』。
今度はいったいどんな過激な戦いが描かれるのか……と思いきや。
なんと題材は女装ダンスユニット!
コンセプトは「カワイイ」だ!
物語は、元体操選手の高校生男子・モン太がツチノコを捕まえて懸賞金1億円をゲットするという突拍子もない絵ヅラから動き出す。
モン太は幼なじみの男子2人、レスリング部員のツバメと柔道部員の竹雄に100万円を渡してお願いをきいてもらう。
もうすぐ催される学園祭に、3人そろって女子の格好でステージに上がり、ダンスするというのだ。
理由はよくわからない。
とにかく「カワイイ」存在になることを極めたい! と強烈なモチベーションだけでモン太は動く。
大金をもらっちゃったしなー、としかたなくダンス練習につきあい始めたほかの2人も、カツラをかぶり、胸を盛り、短いスカートを履いた自分たちの女装姿がえらくよい感じなものだから、うっかり「カワイイの星」なる謎の概念に覚醒。
正体を伏せて女子ユニットとして参加した学園祭の本番ではみごとに観衆を魅了した。
すっかりカワイくなる快感にハマったツバメと竹雄。もっともっとカワイイを追求していこうとモン太に誓う。 しかしそこへかわいげゼロ・性格激悪の女子ワルコが現れ、彼らの正体をつかんだうえでプロデュースを申し出てくる……というあたりで次巻へ続く。
『ハチワンダイバー』、『エアマスター』でいったん「強い」を描ききった柴田ヨクサルが、その果てに「カワイイ」に転換したのがたいへんに興味深い。
いや、あるいは「転換」ではないのかもしれない。
柴田氏の長編デビュー『谷仮面』は、愛らしい少女に恋心を燃やす最強の怪力少年の物語だった。これを分解・再編して「カワイイ女の子姿の自分自身に恋する体育会系少年たち」とした『プリマックス』は、ひとひねりした原点回帰ともいえる(第1巻にはまだ収録されていないが、モン太たちが自作PVのなかで『谷仮面』の谷くんと同じ仮面をかぶるくだりがある)。
その後の作品も含めて、強烈な強さが強烈な愛(かわいさ)にかしずくという側面は、常にヨクサル作品の“らしさ”だった。今回はその集大成ともいえる。
そして、そんなヨクサル作品らしさを受け止めて画に起こす蒼木氏の筆力もみごとなものだ。
今後の展開が楽しみである。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7