365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
10月22日は平安遷都の日。本日読むべきマンガは……。
『陰陽師』第1巻
夢枕獏(作) 岡野玲子(画) 白泉社 ¥790+税
10月22日は「平安遷都の日」。
桓武天皇(かんむてんのう)が長岡京から山背国葛城郡宇太村の新京に都を移したその年号は、だれもが覚えているだろう。
“鳴くよウグイス平安京”……そう、西暦794年のこと。ちなみに平安京と命名されたのは、同年の11月8日である。
784年に平城京から長岡京に遷都していたばかりだというのに、なぜまたわずか10年で首都を移転させたのか。
ここには寺社や豪族の勢力から逃れたかったという政治的理由に加え、風水的な意味あいも強かったといわれている。
この頃、桓武天皇の周辺では不幸が立て続けに起こっていた。母や皇后の相次ぐ死、さらには疫病や飢饉、水害に見舞われ……桓武天皇はこれを、自分を恨んで死んだ早良親王(さわらしんのう)の呪いのせいであると考えたのだ。
当時、風水をつかさどる占術師・陰陽師は、国の政治をも動かす官僚として活躍していた。
ここで紹介する本作は、平安時代に全盛を誇った陰陽師の存在を知らしめ、一大ブームを巻き起こした傑作である。
主人公の安倍晴明(あべの・せいめい)は、実在した希代の陰陽師。生まれつき、百鬼夜行の姿が見えるなどの素質を持つ彼は、修行によって都で随一の陰陽師として名をはせる。
多彩な技を用い、都で起こる怪事件を次々に解決していくが、凄腕ゆえに彼を敵視する者も多い。
心の内を滅多に明かすことはない晴明が、唯一心を許す源博雅(みなもとのひろまさ)(醍醐天皇の孫)とのコンビネーションを、バディものとして読む楽しみも。
史実のおもしろさ、ホラー風味、さまざまな呪法の鮮やかさ、なぞ解きのカタルシスが詰めこまれているいっぽうで、平安時代らしいのどかな時間感覚、滑稽味も備えており、読むごとに味わい深い。
そしてなにより、ため息が出るほど風雅、水墨画のように幽玄な画面はマンガの新しい地平を開いたといえるだろう。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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