日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『コトノバドライブ』
『コトノバドライブ』第2巻
芦奈野ひとし 講談社 ¥590+税
(2015年9月23日発売)
『コトノバドライブ』は、『ヨコハマ買い出し紀行』の芦奈野ひとしの新シリーズ。
ミートソースとナポリタンしか出さないスパゲティ屋でバイトする女の子・すーちゃんが、ふとした瞬間に5分間だけ不思議な光景を見る……という、非日常を内包した日常ものになっている。
30年前の古いバイクでバイト先と自宅を往復するすーちゃん。
かつてあったという入り江、野生化したインコの化身の少女、雨夜に淡い光を放つ謎の花御輿の車列、月の光で浮かんだ削られる前の山並み……。
切り替わった世界には、五感を刺激する叙情的な質感があり、ノスタルジーと少しの怖さが胸に染みる。
その土地や場所に刻まれた昔からの記憶が見せる幻想。
繊細に描かれた夜の闇、霧、海の情景が読者を吸いこむ。
ぼんやりと景色を見ているうちに、いつの間にか思い出や想像の世界に浸っていた……という経験はだれにでもあるのではないか。
そのときの切ないような愛おしいような感覚が、コマの端々から味わえる。
<文・卯月鮎>
書評家・ゲームコラムニスト。週刊誌や専門誌で書評、ゲーム紹介記事を手掛ける。現在は「S-Fマガジン」(早川書房)でライトノベル評(ファンタジー)を連載中。
「The Differencee Engine」