日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい！WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー！

今回紹介するのは、『今夜は月が綺麗ですが、とりあえず死ね』

『今夜は月が綺麗ですが、とりあえず死ね』第1巻
要マジュロ（作） 榊原宗々（画） 講談社 ￥429+税
（2015年10月16日発売）

「月が綺麗ですね」は夏目漱石が「アイ・ラブ・ユー」を訳した時に使った有名な言葉なのに、「とりあえず死ね」って、雑な殺し方すぎじゃないですか？
でもこれは、タイトルどおりのマンガです。

神城卓（かみしろ・たく）はどちらかというとおとなしい、目立たない男子。
彼が好きなのは、幼なじみの少女・花園魅香（はなぞの・みか）。学校中で話題になるほどの美少女。気さくに神城に話しかけてくる彼女は、神城からの告白待ちといった様子。ところが彼はヘタレで告白ができない。

いざ告白！　と決意したある日。彼に異変が起きる。
大好きなはずの花園。無性に殺したくて、我慢できない。

好きな女の子のことを考えると殺したくなる。彼はありとあらゆる手段の殺害妄想をする。
傘をのどに突きたてる。腹や陰部に文房具を突きたてまくる。
イメージのなかでの彼は、満面の笑み。

妄想だけならよかった。困ったことに、彼の身体能力は、なぜか異常に高まっており、殺害を実行できてしまう状態になってしまった。

好きな女の子への恋心と、花園を殺しまくるイメージ。
彼の脳内に浮かぶ花園惨殺の様子は、あまりにも幸せそう。スプラッタギャグなんじゃないかと勘違いするほど。

この作品ではいちおう、殺したい願望には理由がある。とはいえ殺人衝動と恋愛は完全に別物とは言いきれない。
好きになればなるほど殺したい、という欲求は、食欲や性欲に近い純粋な欲求として描かれている。
ということは、だれかに操られているわけではないので、必死になればある程度は耐えられる。
作中では歯を食いしばって、なんとしても耐えようとする。
こんな状態ならば欲望に完全に飲まれて、自我を失って身を任せたほうが幸せなんじゃないか。
……とすら感じちゃうのが、このマンガの罠です。

＜文・たまごまご＞
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」