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『ボーイ♂スカート』第1巻 篠原知宏 【日刊マンガガイド】

2015/11/18


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『ボーイ♂スカート』


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『ボーイ♂スカート』第1巻
篠原知宏 集英社 ¥514+税
(2015年10月19日発売)


高校に入学したばかりの少年・越智(おち)に訪れた運命的な出会い。
相手は、クラスで自分と同じ男子が座る席の列に腰かける、女子の制服を着たクラスメートだった。

和泉重光(いずみ・しげみつ)。
ゴツい名前を呼ばれて返事したその子は、先生からこう紹介される。

「いずみくんはいわゆる「男の娘」だ。今時珍しくないのでこれ以上つっこまないように!」

聞けば重光くん、中学からずっと女子の格好でとおしているらしい。彼を知る者はみな慣れて平然としている。
しかし越智には重光の何もかもが鮮烈、衝撃的だ。
小さな身体、小さなおてて、つぶらな瞳。さらさらした髪にうなじが艶かしい。
男の子と言われても、女の子に対するようにドキドキが止まらない。
そもそも男、女とはっきりわけられる人間ばかりなのか。

「人は… 何%可憐だと女の子なんだろう…」

そんな深い思索を誘われながら、あまりにもかわいすぎる彼/彼女のふるまいに翻弄される日々を描いたのが本作『ボーイ♂スカート』だ。

本作のポイントは、女装男子と「男の娘」がイコール“ではない”というかねあいだ。
女装男子とは言葉そのまま、男子が女装をしている行動の事実をあらわす。
いっぽう「男の娘」は、たとえば男物の服を着ても、周囲から女子相当に扱われれば「男の娘」として成り立つ。「男の娘」に女装は必要条件ではないし、もっといえば当人の性自認さえもあまり関係ない(ヘテロな「男の娘」キャラクターはふつーに成り立ちますよね)。

さて、重光くんはどうだろう。
彼が女子の制服を着ているのには、じつは理由がある。
本人の説明によれば、ある経緯でひどい男性恐怖症に陥っている妹を恐がらせないため……つまり大事な家族の心を守るためにスカートをはき、髪をポニーテールにしているのだという。
だから重光くんは今のところ、単純に「女装をしている男の子」ということになる。男向けのエロ本にも興味深々だったりする。

だが、主人公・越智はその事実ベースだけで重光くんをとらえることができない。
越智の視点からみる重光くんは、男だとわかってもなお女の子としてほれこまずにはいられない存在だ。
意識したきっかけは女子の制服を着ていることだったが、のちに同性結婚を想定するまでに重光くん当人のかわいらしさに心をつかまれていく。

本人は女装男子。あくまで男子。
だが、それを見つめるのは「男の娘」そして女子に対するまなざし。

そんな意識と視点のズレの合い間に立ちのぼる「かわいい」の玄妙さを、ぜひ本作を読んで体感してみてほしい。

ちなみに今年は、題名がほぼ同じでやはり女子制服着用の男子を題材にした『ボーイ☆スカート』という作品も出ている。 そちらもすでに当サイトで紹介されているので、あわせてチェックしてみよう。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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