日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『それでも親子でいなきゃいけないの?』
『それでも親子でいなきゃいけないの?』
田房永子 秋田書店 ¥850+税
(2015年10月16日発売)
『母がしんどい』で各方面から脚光を浴びた、田房永子の最新刊。
母に悩まされた経験のある田房さんが、同じく母に悩む娘たちにインタビューし、それをマンガ化した「うちの母ってヘンですか?」編、それらをもとに親子関係について考察した「それでも親子でいなきゃいけないの?」編、そして毒は母だけではなかった!という著者自身の発見「おや、父親もヘンだぞ?」編、の全3章からなる。
過干渉や呪いの言葉(お前はどうせダメだ、の類い)は序の口。
生理用品やブラジャーを買ってくれなくてティッシュでまかなってた、娘がおしゃれしたり、彼氏ができたりすると「おまえばっかりいい思いを」と逆ギレ、なぜか料理に常に髪の毛が混入している……などの「毒親あるある」(らしい)には「普通の家庭」(なんてものは本当はないのだが……)で育った者には、衝撃ですらある。
今や情報番組やドラマでも「毒親」は、ちょっとしたブームだが、そのなんたるかは今なお理解されておらず、いわゆる虐待ほどわかりやすくはないぶん、誤解も多く、勇気を出して声を上げても「それだけ子どものことを思ってるってことだよ」「そうやって親は乗りこえるんだよ」「親のことを毒呼ばわりするなんてヒドイ」なんてセカンドレイプまがいの説教をされて、本人は罪悪感を抱え、ますます苦しむ……というパターンも少なくないという。
その背景には日本の家族制度をベースとする「家族への幻想」があるわけで、だからこそ「自分が『つらい』という気持ちを基準に判定していいんだよ!」という田房さんの言葉には、勇気づけられる人もきっと多いはず。
ほかにも、『母がしんどい』では母性神話にNO!を唱え、『男しか行けない場所に女が行ってきました』では男中心社会への違和感を突きつけるなど、あらゆる「世間の常識」に揺さぶりをかける視点満載。
自分は毒親とか関係ないや~という人も、目からウロコ必至の一冊だ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69