日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『最果てにサーカス』
『最果てにサーカス』第1巻
月子 小学館 ¥630+税
(2015年11月12日発売)
中原中也、そして小林秀雄。
文学史上でも重要な位置を占める天才詩人と評論家との邂逅の物語が、今ここにマンガのかたちで刻まれ始める――それが『最果てにサーカス』だ。
時は大正14年。
文学青年の小林秀雄と、当時は受験生であった中原中也が、運命的な出会いを果たしたのは春、満開の桜の下だった。
いずれ文筆で身を立てようともがき続けるものの、いっこうに答えの出ない小林を、自分をランボオの生まれ変わりと信じる自由人・中也が翻弄していく。
そして小林も、中也が自分を変えてくれることをひそかに期待していた――。
中也と小林を始め、ここに登場する人物はみな実在し、その関係性も事実に基づいている。
それを下地に、自在にドラマをふくらませているのがじつにみごとだ。
特に中原中也は、おなじみの山高帽にボブカットが魅力的で、非常にかわいらしい。
その言動は私たちがイメージする中也像に自然に添い、天才詩人を表現するエピソードにも説得力がある。
また、中也と同棲する女性も大きなポイントだ。
女優の長谷川泰子――彼女は小林と中也の関係に深く影響を与えていく。今巻でもその兆しは見えているが、それについては今後の展開を楽しみに待とう。
今も昔も、文学好きの少年少女の心をときめかせる著名な2人が、いい意味で青くさい愛憎劇をこれでもかと繰りひろげていくかと思うとワクワクする。
そう、文学とは青臭いもので、それに携わる人々はみな、端から見れば少々気恥ずかしいような情熱と葛藤のなかにいた。そしてそれが、大きな魅力のひとつだったのだ。
それをまざまざと思い出させてくれる本作に、期待せざるをえない。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」