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『豊饒のヒダルガミ』第2巻 ちさかあや 【日刊マンガガイド】

2015/12/09


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『豊饒のヒダルガミ』


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『豊饒のヒダルガミ』第2巻
ちさかあや マッグガーデン ¥571+税
(2015年11月14日発売)


子どもに対して気軽に「ガキのくせに……」なんて使ったりするが、漢字で書けば「餓鬼」。本来は仏教用語で「生前に罪を犯し、常に飢えと渇きに苦しむ亡者」のことだ。
このマンガは、その餓鬼を食べる白髪で盲目の青年・トゼが中心。あえて言うなら、グルメマンガの対極に位置する作品だ。

ときは天保8年、いわゆる「天保の大飢饉」のまっただなか。
トゼは、底なしの飢えから生まれた無念の塊「餓鬼」を喰らう、特異な「豊饒のヒダルガミ」と呼ばれる存在だった。
亡者を彼岸に渡す道を作れる物静かな少年・ゼンと長年旅を続けてきたトゼは、常人の目には映らない餓鬼を見ることのできる少女・ミキを拾い、仲間に加える……。

何ごともまっすぐに見すえるミキの目をとおし、3人のあてなき旅が綴られていく。
餓鬼を喰らうことで、ある意味人々の魂を救済するトゼ。トゼはカミかバケモノか。カニバリズムすらも思わせる画はグロテスクなものの、そのインパクトだけに留まらず、人間の業、醜さ、あるいは心の光のようなものにせまる物語は力強い。

ちなみに本来のヒダルガミは、峠を通る旅人に古くから恐れられてきた憑きものの一種で、取り憑かれると一気に空腹になり、手足がしびれ、動けなくなるという(今回の2巻では、トゼとは異なる本来のヒダルガミと、トゼとの対決も描かれる)。
どこにでも食べものがころがっている飽食の現代では、ヒダルガミの出番も少なくなっているだろうが。



<文・卯月鮎>
書評家・ゲームコラムニスト。週刊誌や専門誌で書評、ゲーム紹介記事を手掛ける。現在は「S-Fマガジン」(早川書房)でファンタジー時評、「かつくら」でライトノベル時評を連載中。
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単行本情報

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