日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『はっちゃん、またね 多発性骨髄腫とともに生きた夫婦の1094日』
『はっちゃん、またね 多発性骨髄腫とともに生きた夫婦の1094日』
池沢理美 講談社 ¥650+税
(2015年12月11日発売)
著者は『ぐるぐるポンちゃん』や『憑いてますか』など、コミカルな少女マンガで知られる池沢理美。
「夫が多発性骨髄腫になりました」と題したブログにて、匿名で綴った経験談をベースにしている。
バツイチ同士で結ばれた夫である「はっちゃん」こと加賀八郎との、激しい闘病の記録だ。
彼はバンド「THE GOOD-BYE」(あの「たのきんトリオ」の一員でもあった野村義男がボーカル&ギターを務める)のベーシストであり、ジャニーズ事務所所属のタレントでもあった。
多発性骨髄腫という病気はあまり症例がなく、治療法も確立されていない。痛みや体の不自由さだけでなく、薬の副作用も苛烈なものだ。
著者が息抜きとして出かけた友人との会合を楽しみながら、突然「…なんで はっちゃんなの……?」とにぎやかな街並みを見ながら慟哭するくだりも、まさに残酷すぎるとしかいいようがない。
それでも、読後感はただ痛ましいだけではない。
「はっちゃん」が本当に素敵な男性として描かれ、愛の深さがうかがわれるし、一秒一時を明るく、当たり前のことを喜びとして生きようとする姿は、せつなくも暖かい。
著者はステージに立つはっちゃんを支えて希望をつなぎ、はっちゃんがスランプに悩む著者の背中を押したからこそ、この作品が生まれ、病気と闘う人の道標になってくれている。
ものを生み出す者同士の絆の深さも感じさせる。
もちろん、自身や家族が病気にかからないことを願いたいが、「病める時も健やかなるときも」家族との幸せな時間を大切にしなくては……と、とおりすぎていく毎日を見直す機会になるだろう。
<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。