365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
1月29日はアントン・チェーホフ(小説家、劇作家)の誕生日。本日読むべきマンガは……。
『櫻の園 完全版』
吉田秋生 白泉社 ¥552+税
1860年の今日、ロシアを代表する小説家・劇作家であるアントン・チェーホフが生まれた。
彼は数々の短編小説を生み、晩年には現代でも読みつがれている名戯曲を書き残している。
『かもめ』、『ワーニャ伯父さん』、『三人姉妹』そして『桜の園』。
なかでも『桜の園』は最晩年に書かれた人気の高い作品で、没落していく貴族の女地主を主人公とした物語だ。
日本の『桜の園』を書きたいと太宰治が言って『斜陽』を書きあげたのは有名な話。
『斜陽』は『人間失格』に次いで読まれている太宰の代表作で、『斜陽』を好む読者なら、チェーホフの『桜の園』を読破している人も多いだろう。
今日ご紹介する吉田秋生の『櫻の園』もまた、マンガ自体、そしてマンガをもとにした実写映画版の評価も高く、たくさんの人々に親しまれている。
チェーホフの名作を、さらに世に知らしめた一端を担っていると言えるのではないか。
『櫻の園』は全4章、同じ女子校に通う4人の女子高生たちをそれぞれ主人公にしたオムニバスストーリー。
桜華学園演劇部では、その名にちなんで、春の創立祭に必ずチェーホフの『櫻の園』を上演することになっている。
各章の主人公はみなこの演劇部に属し、それぞれに揺れる日常を過ごしつつも、割り当てられた役を演じる練習を続けている。
彼氏と次の関係に進むべきかどうか悩んでいる中野敦子は、ヒロインの娘・アーニャを。
複数の男の子と遊んでいて、学校でもハデな子とみられている杉山紀子は、ヒロインの召使い・ヤーシャを。
演劇部の新部長であり、しっかりした外見とは裏腹に過去に傷を抱えた志水由布子は、小間使いのドゥニャーシャを。
そして長身で今まで男役ばかりを当てられており、初めての女性役に戸惑う倉田知世子は、ヒロインである女地主・ラネフスカヤ夫人を。
それぞれの役柄や台詞は彼女たちの心情とリンクし、彼女たちの日常での葛藤を浮かび上がらせていく――。
第1章ではまだ固い芽だった桜が、第4章では満開になり風にその花びらを散らしている。
その時の流れとともに、少女たちは少しずつ変化をとげていく――。
読後感は非常に静かで、しみじみとした感情が残る。
吉田秋生のほぼ同時期の作品に『河よりも長くゆるやかに』があり、そちらではみごとに男子高校生の心情を描きだしている。
それと同様にこの『櫻の園』でも、さりげなく、それでいて深く、女子高生たちの気持ちが浮き彫りにされる。
暦ももうすぐ立春だ。とはいえまだまだ寒く、桜の開花便りを聞くにはほど遠い。
しかし、この『櫻の園』のページをめくればそこは桜の季節。
ひと足早く、あの浮き立つような、それでいてもの悲しいような春の空気を感じるのも、悪くないのではないか。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」