日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい！WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー！

今回紹介するのは、『アンと教授の歴史時計』

『アンと教授の歴史時計』第1巻
もとなおこ 秋田書店 ￥429+税
（2016年1月15日発売）

著者は『ガーフレット寮の羊たち』、『コルセットに翼』など、19世紀前後のイギリスを舞台にした寄宿舎ものなど、懐かしの少女マンガや海外児童小説のような手触りを持つ作品で知られる。

今作もやはりイギリスを舞台にしているが、時代は西暦2000年、ヒロインは苦学生のアン、とまあちょっと意外な出だし。
しかし、ある不幸な事件により、堕天使と名乗るハーバード・ジョージ・ウェルズ（＝小説『タイムマシン』の著者Ｈ・Ｇ・ウェルズ）に導かれ、グリニッジ大学の歴史修復科に在籍する特殊な存在となる。

さらに、ウェルズの子孫、アシュリー教授の教え子として、天界の命数プログラムを破壊し人の運命を狂わせる「黒妖犬（ヴァイラス）」（イギリス伝承の不吉な妖精でもある）を駆除すべく、過去へさかのぼり歴史を修復することに。

ウェルズが作った（！）というタイムマシンは天球儀を思わせるファンタジックなものであり、懐中時計が通信アイテムになるなど、憧れの英国趣味のなかに古きよきSFのエッセンスも混ざりあった素敵な冒険活劇となっている。

その時代や職業に適した姿に扮するため、アンはクラシカルなメイドになったり、1940年代のファッションに身を包んだりと目まぐるしく、未来から来ているとの正体を知られてはいけない魔法少女チックな設定にもときめく。
あの第2次世界大戦を勝ち抜いたウィンストン・チャーチルのひ弱な子ども時代は愛らしいし、大切な人の若かりし頃に出会いルームメイトになるなど、時間旅行ものの魅力もいっぱい。

自身の運命を修復すべく与えられたわずか1年の間に、薄幸のアンが自分の「命の価値」に気づくことも大きなテーマとなっている。
一見厳しいアシュリー教授がそのきっかけになりそうだが、そうはさせまいと嫉妬する愛猫トム・タフィーも、モノローグにふされた肉球マークを含めてキュートすぎる。

長くはない期限だが、彼らとともに旅するアンの姿をたくさん見てみたい！

＜文・和智永 妙＞
「このマンガがすごい！」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。